表題番号:2024C-614 日付:2025/03/24
研究課題日本語母音の音声生成時における円唇性の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 日本語教育研究センター 准教授 井下田 貴子
研究成果概要

日本語の /o/ /u/ に先行する半母音や拗音において、中国語を母語とする日本語学習者の発音生成および知覚の両面に誤りが見られるという報告がある。特に初級段階では /o/ /u/ の混同が生じやすく、その原因として日中両言語における母音の違いが影響していると考えられている。

日本語も中国語も IPA では /o/(円唇後舌半狭母音)と表記されるが、日本語の /o/ は厳密には [u] よりも母音図上で下寄りとされ、中国語の /o/ はこれより開口度が高いとされる。一方、日本語の /u/ は従来、非円唇後舌狭母音とされていたが、近年では円唇中舌狭母音であるとの報告もある。これに対し、中国語の /u/ は円唇後舌狭母音であり、最近の報告の中には、日本語の /u/ よりも舌の位置がさらに奥にあると定義されているケースもある。こうした違いに加え、日本語母音 /u/ については、音環境によって円唇性の度合いに差があることが指摘されており、学習者の発音との比較を行う以前に、まず日本語母音 /u/ の円唇性について詳細に調査する必要がある。

本研究では、日本語母音 /u/ の円唇性が様々な音環境でどのように変化するのかを明らかにするため、音響分析および発話者へのアンケート調査を実施した。調査協力者は20代前半の東京方言話者(女性)数名である。音響分析のため、読み上げ音声の録音を実施し、ターゲット語として /u/ および /o/ を含む1音節語および2音節語を選定した。また、読み上げの際には、通常通りの発音に加え、強調した発音の2パターンを指示した。音響分析の結果、通常の発音に関して音響特徴量には円唇性が示され、強調の場合にはより円唇性を示す音響特徴量に変化が見られた。これらの結果から、発音指導の際に教師も学習者を対象に同様に行う可能性も考えられるため、視覚情報と音声情報の関連性についても今後検討が必要であるだろう。