研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 日本語教育研究センター | 准教授 | 鄭 在喜 |
- 研究成果概要
近年、第二言語としての日本語学習者が増加する中で、日本語母語話者の事態把握の傾向を明示することは、日本語習得において重要である。本研究では、日本語話者の「見え」、特に主語「私」の省略に着目し、学習者のレポートを分析することで、その気付きの過程を明らかにする。対象は初級から中級の学習者とし、調査および分析を行った。
本研究は、日本語学習者が「見え」という、日本語母語話者に特有の認知様式をどのように理解し、その発展過程を探ることを目的とする。特に、受身表現および「なる」表現に注目し、学習者が「見え」をどのように捉え、明示的指導によってその認識がどのように変化するかを分析した。
受身表現に関しては、学習者の産出文を分析した結果、ほぼ全ての参加者が被害者視点を採用していることが判明した。文法的な誤りは見られるものの、「踏まれる」「怒られる」「盗まれる」などの表現を用い、状況を効果的に言語化していた。これは、学習者が自身の経験と関連付けることで、登場人物への共感を深め、物語に関与しやすくなったためであると考えられる。また、明示的指導によって、日本語的な主観的視点をより適切に取ることが可能となり、「見え」への気付きが促進された。
「なる」表現に関しては、多くの学習者が出来事を主観的に解釈し、単なる客観的事実の記述に留まらず、自身の知覚や感情を反映させようとしていた。この傾向は、出来事の進行や結果を重視する「見え」の概念と密接に関連している。学習者が自らの記述に感情的・主観的要素を取り入れていたことは、「見え」への理解が深化し、それを言語表現に統合しようとする試みの一環であると考えられる。
以上の結果から、明示的指導は学習者の「見え」への気付きを促進し、日本語的な主観的視点の獲得に寄与することが示唆された。本研究の知見は、日本語教育における指導方法の改善に貢献すると考えられる。