表題番号:2024C-608 日付:2025/03/31
研究課題バンコクにおけるジェントリフィケーションの特徴と課題:都市下層の視点から
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 大学院アジア太平洋研究科 教授 遠藤 環
研究成果概要

 本研究の目的は、民間企業主導の大規模再開発が顕著に進むバンコク(タイ)を事例に、アジアのメガ都市におけるジェントリフィケーションの実態、特徴と課題を明らかにすることである。2010年代以降、バンコクでは多くの大規模な再開発事業が進行する一方で、地場の生鮮市場や露天商、都市下層のコミュニティの移転・撤去が増大し、社会的な緊張を生んでいる。元来、都市下層のインフォーマルな居住地は、1990年代に生存権や居住権を尊重する政策が登場してから、暴力的な撤去が実施されることはなくなり、インフラ整備、仮住居登録の発行やマイクロクレジットの設立といった支援政策の対象となってきた。ところが、他のアジアの都市と同様に、2010年代以降、これらの状況は一転した。本研究では、2024年度夏にタイでフィールド調査を実施し、住民、関連の政府機関などに対してインタビュー調査を行った。また、タイの関連研究者と共に統計データを用いて、バンコクの格差と階層再編の実態について、分析を進めた。その成果の一部を、タイ研究の専門家が集まる研究会で報告した(12月)。また現在、英文ジャーナルに投稿中である。

バンコクにおけるジェントリフィケーションの特徴は、第1に、外向きの都市化によって引き起こされていることにある。20世紀の都市化初期段階とは異なり、海外からの投資家や購買者のニーズが強く反映されているからである。第2に、BTS(バンコク高架鉄道)の路線延伸や、都心におけるミックスユース型の大規模な不動産開発事業により、中間層や富裕層の都心回帰現象が顕著になっている。第3に、その結果として、都市下層のコミュニティのみならず、歴史的な地区など、広範囲にその影響が及んでいる。第4に、これらの現象を、ジェントリフィケーションの視点から捉える事例研究が急増しているが、類型化や定義の統一は行われておらず、各分野の事例研究を架橋する作業が必要である。