表題番号:2024C-572 日付:2025/04/01
研究課題一過性の有酸素性運動が食品報酬及び食品選択に及ぼす影響
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) スポーツ科学学術院 スポーツ科学部 教授 宮下 政司
研究成果概要

目的: 若年男性を対象に、一過性の有酸素性運動による高脂肪食品に対する欲求及び嗜好性の低下がその後の食事及び食品選択に及ぼす影響を検討することを目的とした。

方法: 研究デザインは無作為化交差試験とし、14名の健常な若年男性(21.6 ±1.8歳、 平均値±標準偏差)を対象に安静試行と運動試行の2試行を行った。事前測定及び本試験は、実験室で行われた。事前測定は、漸増運動負荷試験と最大運動負荷試験を実施し、各参加者の最大酸素摂取量の70%を算出した。本試験では、一晩の絶食後に来研し、両試行とも30分の安静状態後、30分間の安静あるいは運動を行い、心地よい範囲で満足すると感じるまで自由食を摂取した。食物報酬の評価は、空腹時、運動後、自由食後に計測した。食物報酬は、日本語版Leeds Food Preference Questionnaireを用いて評価した。評価項目は、脂質エネルギー比の異なる食品に対する、1)意識的な好み、2)意識的な欲求、3)無意識的な欲求、4)相対的な嗜好の計4項目とした。食品選択は、脂肪分の異なる同じ食品群、似た食品にて構成された自由食を用いた。評価項目は、高脂肪食品の摂取量と低脂肪食品の摂取量とした。主観的食欲及び糖代謝指標は空腹時、運動後、自由食前、自由食後にそれぞれ視覚的アナログスケールおよび静脈血より評価した。

結果: 食品選択について、高脂肪食品摂取量、低脂肪食品摂取量ともに試行間に差は認められなかった(高脂肪:p=0.398、低脂肪:p=0.522)。自由食の相対的エネルギー摂取量は、安静試行(1459±616 kcal)と比較して、運動試行(1042±344 kcal)で低値を示した(p0.001)。グルコース濃度における試行と時間の交互作用について、試験開始30分の時点で、安静試行と比較して、運動試行で高値を示した(p=0.007)。主観的食欲について、試行間に差は認められなかった(p=0.170)

考察・結論:本研究より、一過性の運動は食品選択には変化が見られず、エネルギー摂取量を低下させることを確認した。この結果は、運動による糖代謝の促進に伴う血中グルコースの上昇が、エネルギー摂取量に影響を与えることを示唆している。また、グルコースの上昇が食欲調節ホルモンの変動を介して食欲に影響を与えた可能性があるが、その影響は食品選択の変化をもたらすほどではなかったことを示唆している。一方、運動は主観的食欲に影響を与えなかったが、運動による食欲調節ホルモンの変化がその後のエネルギー摂取量に関与している可能性が考えられる。