表題番号:2024C-567
日付:2025/02/04
研究課題日本語の指示詞選択に話し手/聞き手にとっての指示対象の見えやすさが及ぼす影響
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 人間科学学術院 人間科学部 | 講師 | 門田 圭祐 |
(連携研究者) | 人間科学学術院 人間科学部 | 准教授 | 関根 和生 |
- 研究成果概要
- 本研究では、日本語における指示詞の選択に、指示対象の見えやすさが及ぼす影響を明らかにした。日本語の指示詞にはコ系、ソ系、ア系の3つの形式があり、指示詞を用いて何かを聞き手に指し示すとき、話者は特定の形式を選ぶ必要がある。多くの言語において、指示詞の形式は話者から指示対象までの物理的な距離に応じて選ばれる。一方で、日本語を含め、一部の言語の指示詞選択では聞き手から指示対象の距離も考慮される。たとえば、話者に近ければコ系、聞き手に近ければソ系、どちらからも遠ければア系といった具合である。加えて、先行研究では、物理的距離以外の要因が指示詞選択に影響することも示唆されてきた。たとえば、話者に指示対象が見えない場合は、見える場合に比べて、コ系の使用率が低下することが知られている。しかし、先行研究では、話者にとっての見えやすさのみが要因として操作されていたため、聞き手にとっての見えやすさが指示詞選択に与える影響は明らかになっていない。そこで本研究では、日本語の指示詞選択に話し手/聞き手にとっての指示対象の見えやすさが及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。60名の日本語母語話者が調査に参加した(平均19.05歳)。参加者は、机の上に置かれた絵付きのカードを指差しながら指示語を含む依頼発話(「この赤いハサミをとってください」など)を産出するように求められた。カードを配置する際、3つの要因が操作された。具体的には、(1)話者にとっての指示対象の見え方(見える、部分的に見える、見えない)、(2)聞き手にとっての指示対象の見え方(見える、部分的に見える、見えない)、(3)指示対象の位置(話者から25cmから300cmの距離に等間隔で12箇所)が操作された。各指示詞の選択率を分析した結果、話者にとっての見えやすさと聞き手にとっての見えやすさの両方が指示詞選択に影響することが示された。聞き手に指示対象が見えない場合、指示対象が見える条件や部分的に見える条件よりもコ系の選択率が増加した。逆に、話者に指示対象が見えない場合、指示対象が見える条件や部分的に見える条件よりも、コ系の選択率が低下した。これらの結果は、日本語話者は、物理的距離に加え、話者と聞き手、両方にとっての指示対象の視認性も考慮して指示詞を選んでいることを示唆している。