表題番号:2024C-549
日付:2025/03/30
研究課題インドネシアの専業沈香採集者の 経験知を活用したジンコウ樹種の分布域の推定
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 人間科学学術院 人間科学部 | 助手 | 佐野 洋輔 |
- 研究成果概要
- 沈香は、東南アジアの森に自生するジンコウ樹種(Aquilaria spp.とGyrinops spp.)が生成する芳香性の樹脂を含む木質であり、古来より日本、中国、中東へ交易され、各国の香文化を支えてきた。しかし、生息地減少と過剰採集により個体数は激減し、2005年にはワシントン条約附属書Ⅱに掲載された。天然沈香の持続的利用は喫緊の課題である。本研究の目的は、①インドネシア南カリマンタン州の専業沈香採集者の経験知を基にジンコウ樹3種の分布域を推定し、②経験知を組み込んだ天然沈香保全のあり方を検討することである。本年度は、現地調査の時間の制約から、特に②の研究を進めた。①については、予備調査として2023年8〜10月、2024年2〜3月、2024年8〜9月にインドネシアを訪問した。まず、調査地で方名と学名の照合を行うために、ジンコウ樹3種(A. beccariana、A. malaccensis、A. microcarpa)のサンプルを収集して葉の乾燥標本を作成した。また、首都圏の沈香輸出業者4名へインタビューを行った。沈香の産地ごとに香りと価格が異なるため採集圧にも差があり、各産地の樹種を確定することの重要性を確認した。研究ビザの取得までは完了したが、当初2025年2月に予定していた採集者へのインタビュー調査は、博士論文執筆を優先し2025年7月に延期した。①に関連して、専業採集者の経験知と対比すべき地元採集者の在来知を整理した【論文1】を発表した。②については、過年度調査をもとに、インドネシアの天然沈香保全の仕組みと課題を論じた【論文2】を発表した。ワシントン条約に基づく輸出割当制度により採集と流通は管理されているが、在来知や経験知は活用されず、過剰採集が放置されていた。中央政府の調査予算不足により樹種の分布域が不明なまま、誤った樹種名で輸出される実態が明らかとなった。在来知に基づく推定が有効であれば、樹種ごとの流通管理が可能となることが示唆された。