表題番号:2024C-542 日付:2025/03/26
研究課題人口減少社会における格差拡大の進行過程とその社会的帰結に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 人間科学部 教授 浅川 達人
研究成果概要
 2024年度は、東日本大震災で被災した岩手県大槌町、山田町、釜石市を分析対象地域として、(1)2020年現在の社会空間構造を社会地図化し、災害が地域社会に与えた影響を可視化する、(2)年齢階級別人口構成の長期トレンドを分析し、災害が人口構成に与えた影響を分析する、(3)人口構成の変化の大きな要因である産業構造の変化を分析し、復興が地域社会にもたらした影響を考察することを行った。
 (1)社会地図については、岩手県から広島県までを含む、1次メッシュ63メッシュ、3次メッシュ104,940メッシュを分析対象地域とし、2020年国勢調査データを用い、クラスター分析により27の社会地区を析出した。その結果、三陸沿岸地域については、東日本大震災が地域社会の社会空間構造を特異に(公営住宅が多い地域)変化させたことが明らかとなった。
 (2)年齢階級別人口構成の長期トレンド分析については、(2-1)各年齢階層の年齢別構成比を1980年から2020年まで5年毎に集計した。その結果、いずれの地域も20歳を契機に地域を離れる(人口流出する)という傾向が1980年代から今日まで続いていることが明らかとなった。また、(2-2)震災前(2005年から2010年)と震災後(2015年から2020年)のコーホート変化率の変化を比較した。その結果、人口流出が減少した地域と増加した地域が存在することがわかった。
 (3)震災後(2015年から2020年)の産業構造の変化を分析した。その結果、いずれの地域も、1970年代後半に迫られた「(遠洋)漁業中心の産業構造に代わる新たな産業構造の創出」がいまだに果たされていないことが明らかとなった。
 これらの分析の結果、東日本大震災の被災地における復興事業においては、新たな産業構造の創出がなされないままに、住宅の供給(再建・災害公営住宅)やインフラの整備がなされたことが示された。復興事業は、持続可能な地域社会の再建(もしくは創出)を目標として行われるべきであるが、それがなされていない実態が明らかとなった。