表題番号:2024C-496 日付:2025/03/28
研究課題暑熱ストレスに適応した生活空間の構築
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 国際理工学センター(理工学術院) 教授 吉田 篤正
研究成果概要

地球温暖化も相まって都市空間の暑熱化が進行しており,熱中症の発生が頻繁に報告されている.その適応策として,冷却材による局所冷却が考えられる.効果的な冷却部位として手足が注目されている.掌や足裏にはAVA(動静脈吻合)血管と呼ばれる放熱を促す特殊な血管がある.AVA血管のある部位を冷却することで冷えた血液を効率的に体内に循環させ,深部温度を下げる効果が期待される.本研究では,相転移温度が12℃の蓄冷材料と約-10℃の極低温保冷剤による低温冷却を用いて足裏への冷却を歩行運動後に行い,生理応答を被験者実験により明らかにした.暑熱環境下の運動後,AVA血管を介した足裏への局所冷却(PCM冷却,低温冷却)によって,深部温度の低下が認められた.発汗量の抑制も低温冷却では明確に確認できた.冷却により血管収縮が起こり,皮膚血流量の低下,心拍数の抑制が観測された.これらの冷却効果は冷却温度が低い低温冷却の方がPCM冷却より大きいことが明らかになった.

暑さに対する人体の適応として暑熱順化に注目した.夏季の暑熱順化に必要な暑熱曝露条件を推定し,暑熱順化による生理機能の変化を検証した.暑熱順化は日常生活における暑熱曝露により達成されると考えられるため,被験者の日常生活における生活温を春から冬にかけて常時計測することにより,被験者の暑熱曝露履歴を推定した.被験者に対して定期的に運動ストレス実験を実施し,暑熱ストレスに対する生理反応を計測し,暑熱耐性の季節変化を評価した.運動習慣のない被験者では,安静時深部体温の上昇や運動時の発汗量の減少など,季節順応傾向が確認されたが,運動習慣のある被験者では,運動時の発汗量が増加するなど,短期的な暑熱順応傾向が見られた.生活温度28℃以上の環境に4時間以上滞在した日数は,季節順応を達成するための暑熱曝露条件の有効な指標となる可能性があることが示された.