表題番号:2024C-471 日付:2025/02/05
研究課題センシング機能を備えた物理リザバーの動作実証
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 先進理工学部 教授 長谷川 剛
研究成果概要
物理化学現象の非線形変換特性と短期記憶特性を計算に利用する物理リザバーは、深層学習に続く機械学習手法として期待されている。特に、エッジAIデバイスへの応用を目指した研究が盛んに進められている。例えば、イメージセンサーと物理リザバーを併用した画像認識によるロボットアームの制御などが実現されている。一方で、従来の物理リザバーでは、センサーで検出した信号を電圧信号に変換して入力する必要があり、それが情報処理の律速過程となっていた。この課題解決のため、センサーを用いることなく音や光などの環境信号を直接入力できる物理リザバーの開発が近年始められている。我々の研究室でも、固体電解質半導体における光導電性とイオン拡散の協働現象を利用して、リザバー層に照射した光をそのまま入力として扱える物理リザバーの開発に成功している。具体的には、リザバー層に照射した光パターン(文字型光)の認識動作を実証した。この実験はある意味「静止画」の検出であったが、本研究では、それをさらに発展させて、時系列データである「動画」の分類タスクの実現を目指した。「静止画」から「動画」に記憶対象が変わったことで、リザバー層にはより高い短期記憶性能が求められることになる。固体電解質材料として、従来は硫化銀の多結晶薄膜を用いていたが、本研究では、銅ドープ酸化タンタルのアモルファスを用いることにした。その結果、硫化銀では4ビット列の記憶までしかできなかったのに対し、銅ドープ酸化タンタルでは6ビット列の記憶まで実現できた。短期記憶容量の向上が確認できたので、複数の文字型光をリザバー層に順次照射する実験を行ったところ、照射した光文字とその照射順を99%の精度で認識することに成功した。この結果は、自動運転など、情報処理のリアルタイム性がより求められるシステムへの物理リザバーの高い応用可能性を示していると言える。当該成果をJpn. J. Appl. Phys.に投稿した。