表題番号:2024C-459 日付:2025/01/19
研究課題市場の不確実性を考慮した環境配慮製品ポートフォリオの意思決定に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 創造理工学部 准教授 大森 峻一
研究成果概要

近年、地球温暖化の影響により、企業はよりグリーンな製品開発を行うことが求められる。この様なグリーン製品の開発には、これまでと大きく異なる技術・設計・生産の方法が求められることがある。このため、既存のコア技術を有する企業は、これまでの強みを活かすことができず、新興企業の参入により、大きな収益ロスを被ることになり得る。本研究では、この様な新たな構造変化を引き起こす製品をRadical Green Innovation (RGI)と呼ぶ。

一方で、自動車業界の様な進化速度(クロックスピード)が緩やかな業界においては、技術・関連インフラは段階的に向上し、それに併せてマーケットも段階的に拡大する傾向にある。このため、技術への投資回収期間が長くなり、また拡張段階の収益確保が困難になる。さらには、この様な課題への解決策の1つとして、RGIの開発と並行して、既存技術の改善も行う「両利き」の戦略が考えらえる。本研究では、この様な既存技術の改善により開発される製品をIncremental Green Innovation (IGI)と呼ぶ。

この様にRGIIGIの両方に対する潜在的なニーズが存在する場合において、企業は製品ライン戦略、すなわち、(a)RGIのみに集中するか、(b)RGIIGIの両方に分散を行うか、に関する意思決定を適切に行うことが極めて重要である。本研究では前者を(a)シングルパスウェイ戦略、後者(b)をマルチパスウェイ戦略と定義する。この様なグリーン製品開発における製品ライン戦略はChen (2001)Krishnan and Lacourbe (2011)により、研究がなされてきた。本研究では、これらの従来研究に技術の不確実性の影響を考慮に加える。RGIは、新技術であるため、実現できる技術レベルに不確実性が存在することが少なくない。この様な不確実性に加え、顧客趣向・価格などの要因が複合的に影響する状況において、各要素がどの様な時に、どちらの戦略がより適合するかを判断することは容易ではない。

本研究の目的は、技術の不確実性が存在する状況において、企業が利益と環境の向上という二重の目的を達成するための、新技術開発(RGI)と既存技術改善(IGI)の適切な選択の意思決定フレームワークを示し、どの様な条件で、どちらの意思決定が望ましいかを明らかにすることである。

本研究では、両戦略を数理的にモデル化し、それに対する最適利益・最適環境水準の計算を行った。結果として、①技術の技術の確信度が大きい場合は、よりシングルパスウェイ戦略の方が有利になる、②シングルパスウェイ戦略においては、RGIに対してより高い従来品質を設計することが必要となる、③環境品質においては、どちらの戦略においても無視することが企業にとっての最適解となるため、環境品質改善は、企業にとってのインセンティブにはならず、政府などが外生的に環境品質レベルを決定することが重要である、ことを明らかにした。

本研究では、技術の不確実性が存在する場においてのグリーン製品開発の製品ライン戦略ついてモデル化と考察を行い、いくつかの重要な知見を導いた。今後は、開発期間の不確実性・競合他社の考慮などを加えることで、より現実に近い状況を検討する。