表題番号:2024C-407 日付:2025/02/12
研究課題報酬額開示ルール変更と経営者行動
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 商学部 教授 三橋 平
研究成果概要

CEO報酬と企業規模の関係を探る研究では、経営者の報酬開示を規定する規制の存在を前提とすることが多い。しかし、このような規制は世界共通ではない。近年、米国以外の国々での規制変更は、この前提の再検討を促している。具体的には、開示義務に対応して経営者が企業規模を調整し、自らの貢献と報酬のバランスを示そうとする動きを検証する機会を提供している。そこで、本研究では、CEOが報酬開示義務にどのように対応するのか、またその義務がどのような行動を引き起こすのかを探る。

本研究では、CEOの「資格シグナリング」に関する仮説を提案し、検証している。すなわち、報酬が公に開示されると、CEOは自らの報酬が正当であることを示すために、企業規模を拡大しようとする可能性があるというものである。2010年の日本における報酬開示義務の導入後の企業規模の成長を分析した結果、この仮説を支持するエビデンスが得られた。具体的には、2010年の開示義務の対象となったCEOが経営する企業では、企業規模が拡大する傾向がみられた。さらに、この傾向は、開示前の企業パフォーマンスが低い時に強く、また、CEOの権限が限られている時には比較的弱いことが示された。

これらの結果は、CEOの貢献と報酬の不均衡を是正することを目的とした開示義務が、逆説的にCEO報酬の増加をもたらす可能性を示唆している。これは、CEOはより大きな企業を経営することで、自らの報酬を正当化できるためである。