表題番号:2024C-382 日付:2025/03/31
研究課題ウォルター・ペイターの『ギリシャ研究』における吸血鬼文学とロマン派の影響
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教育学部 教授 虹林 慶
研究成果概要
 本特定課題研究は、ヴィクトリア朝末期の散文家であるウォルター・ペイター(1839-94)の独創的な古代ギリシャ文化に関する著作である『ギリシャ研究』におけるギリシャ神話に関するエッセイをイギリス・ロマン派文学の影響において読みとく試みである。特にディオニソスを吸血鬼として描いている点を指摘し、ペイターが独自の美学においてロマン派文学を継承していることを示した。なお、本研究の遂行にあたって電子資料(書籍および論文)の閲覧や整理のためにPC環境の整備を行い、辞書や必要書籍の購入を行った(研究費の主な用途)。
 本研究の進捗状況について報告する。結論として、作品の分析、必要な資料の収集と読解、国際誌への論文投稿を行うことができた。『ギリシャ研究』のなかで本研究が中心的に扱ったものは、「ディオニソス研究」、「エウリピデスの『バッカスの巫女たち』」、「デメテルとペルセポネの神話」である。まずペイターが、ディオニソスをロマン派的感性の持ち主として神話を再構築していることをパーシー・シェリー(1792-1822)などと比較しつつ示した上で、メランコリーに囚われて悲劇を引き起こすディオニソスを、ペイターが吸血鬼として表現していることを指摘した。このように、想像力の衰退からおこるロマン派詩人の悲劇と吸血鬼表象がペイターのなかで結びついていることを明かにした。
 次に、ロマン派詩人、ジョージ・ゴードン・バイロン(1788-1824)より始まり、テオフィル・ゴーティエ(1811-1872)などを含む吸血鬼文学の伝統を、ペイターが自身の美学の正当化に用いようとする試みについて論じた。特に、エッセイ、「レオナルド・ダ・ヴィンチ」におけるペイターのモナリザ観はディオニソス神話構築と吸血鬼文学の交差点であることを示した。結論として、本研究はペイターによるロマン派の受容を、吸血鬼文学の継承というこれまで指摘されなかったコンテクストにおいて証明するものである。