表題番号:2024C-374 日付:2025/03/29
研究課題現代日本における「戦争の語り」に関する基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教育学部 教授 五味渕 典嗣
研究成果概要

 本研究では、1990年代以降の日本社会と軍事・戦争との関わりの変化に注目し、文学をはじめとする表現が現代の戦争を語る/語り直す際の問題意識と批評性を検討することを目指した。具体的には、以下の①~③の研究活動を行った。


 ①2024年度に認められた特別研究期間での研究課題と連動させるかたちで、「ポスト冷戦」期の戦争記憶と政治の問題、とりわけ「移行期正義」にかかる世界的な動向について、文献資料にもとづく調査を行った。また、東アジアにおける実践として韓国での動向に着目、ソウル特別市や京畿道坡州市にて現地調査を行った。


 ②ロシアのウクライナ全面侵攻、イスラエルのパレスチナでの圧倒的暴力の行使とそれに対する抵抗の文脈で、ドローンをはじめとするテクノロジーがどのように用いられ、どのような国際法的・道義的な問題を惹起するかについて、先行研究にもとづく検討を行った。これに関連し、早逝した日本のSF作家・伊藤計劃の描いたインテリジェンスと戦争の一体化という問題意識に注目し、伊藤の想像力のアクチュアリティを論じた論考を発表した。


 ③文学言説をはじめとする表現が、現代日本でどんな「戦争」のイメージを再生産しているか、作品の表現に即した調査を行った。その結果、とくに(a)過去の戦争の記憶を再話する際、ジェンダーやセクシュアリティ、難民と抵抗の問題など、〈いま・ここ〉の政治的社会的問題設定を強く意識した作品世界が構築されていること、また、(b)戦争記憶の再話の土台となる共通知識として、学校教育、とくに国語科の教材で語られた戦争のイメージが大きな役割を果たしていることが確認された。後者については、今後、現職の中学・高等学校教員との共同研究プロジェクトへと発展させていく予定である。