表題番号:2024C-342 日付:2025/02/19
研究課題採炭現場労働者の技能に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文化構想学部 講師 清水 拓
研究成果概要
本研究は、旧住友赤平炭砿における急傾斜欠口採炭法の生産・作業工程と労働者の技能を詳細に記録・記述することを目的としたものである。緩傾斜機械化採炭においては、装置によって生産工程が規定されていたが、欠口採炭においては、労働者自身による現場の条件の判断と作業の段取りや、彼らの手工的技能が、生産・保安を左右する重要な要素であった。本研究は、熟練労働者の技能を、鉱山模型製作を通じて把握することの可能性を探る実験的な取組みである。
夏季に赤平市において資料調査と聞き取り調査を実施し、欠口採炭法の規格や作業手順に関する情報を整理した。現地から戻ったあと、欠口採炭現場の中央部分を再現した模型を製作するための図面を、関係者とメールのやりとりをしながら完成させた。その後、報告者が欠口採炭現場の中央部分の模型を試作した。その試作模型を赤平市に持参し、元労働者に見てもらい、細部の誤りや改善点の指摘を受けるなどのフィードバックを得た。その結果、作業上の規格はありながらも、現場判断で安全かつ効率的に作業を進めるべく段取りをするなかで、必ずしも規格どおりとはなっていなかったことも示唆された。また、今後の模型の本製作や、欠口採炭現場の他の部分の製作に向けたノウハウを得ることができた。
これらの調査研究に関連する成果は次の3点である。第1に、元炭鉱労働者との共同での鉱山模型製作を通じた手工的技能の把握の可能性と限界について、早稲田社会学会大会にて研究報告をおこなった。第2に、一連の鉱山模型製作の経緯と成果について、前年度の日台シンポジウムの報告原稿に大幅に加筆する形で『WASEDA RILAS JOURNAL』掲載の論考にまとめた。第3に、本課題が対象とする住友赤平炭砿だけでなく、元熟練労働者が存命の台湾の炭鉱に関しても同様のアプローチの可能性を探るべく、そこでの採炭作業の概要を整理し、石炭産業関連の博物館やNPOの関係者に向けて報告した。