表題番号:2024C-332 日付:2025/04/02
研究課題オーウェル『一九八四年』が冷戦期の東側陣営で果たした政治的・文化的役割について
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文化構想学部 教授 渡辺 愛子
研究成果概要
本研究課題では、イギリス20世紀の作家ジョージ・オーウェルの最晩年の作品『一九八四年』が冷戦期、共産主義諸国において果たした政治的・文化的役割について解明しようというものである。とくに、東側陣営における読者(おもに本書の地下出版に尽力した知識人たち)の動向に注目し、彼らがどのような信念のもとで禁書とされた『一九八四年』を入手し、熟読し、さらにこれを普及させようとしたのか探ることを目的としていた。そのために、これまで筆者がデジタル撮影によって入手した英国公文書館における政府内部資料を効率よく読み取る手段として、現在採択中の科研費との合算で、デジタルデータベースの構築を行うこととした。草案からその方法、期間の策定に時間を要したが、結果的に、計11,440画像(140フォルダ)を一括検索できるデータベースが2025年1月末に完成し、現在、解析を進めている。これにより、イギリス政府がオーウェルおよび彼の文学作品をいかに政治利用したか、その内実の解明が期待される。一方、データベースの構築にはかなりの時間がかかることが予想されたため、業者に委託していた期間中は、オーウェルの『一九八四年』についてさらに理解を深めるべく、本作の作品分析を行った論文を執筆した。構造主義的視点から本作の解釈を試みることにより、オセアニア国の党が古典的な抑圧装置および近代的なイデオロギー装置を駆使してオセアニア市民を完全なる支配下に置いていることが明らかとなった。また、構造主義的(ゆえに「全体主義的」な)制約に囚われた『一九八四年』は「閉じた」物語とならざるをえないが、この解釈は同時に、ポスト構造主義的作品分析にも可能性を拓くものと考えられる。本論文は、早稲田大学多元文化論系紀要『多元文化』第14号に掲載された。