研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 法学学術院 法学部 | 教授 | 渡辺 徹也 |
- 研究成果概要
本研究は、最近の国際課税において注目されているデジタル課税に対するOECDの取組みの経緯と問題点を抽出し、日本政府の対応のあり方を検討するものである。その際には一方的措置としてのデジタルサービス税(DST)との関係についても取り上げた。
OECDのBEPS(税源浸食および利益移転)プロジェクトにおける包摂的枠組み(Inclusive Framework)は、これまで「済のデジタル化に伴う課税上の問題への対応」について、多国間条約(MLC)案のテキストを公開し、条約の署名および発行にむけて努力してきた。条約は2025年中に発効することが目標とされていたが、未だに実現していない。当該発効には事実上アメリカの批准が不可欠という高いハードルが盛り込まれていることが理由の一つである。
また、国際協調を促すOECDの働きかけにも拘わらず、市場国の幾つかは、デジタル経済への国内法上の一方的措置としてDSTを導入してきた。MLCの発効までは新たに制定されるDSTや類似する措置を課さない(凍結する)ことが一応は合意されてきたが、MLCが発効しなければ、上記DSTの凍結は解除される。なお、カナダのように上記凍結を無視してDSTを導入した国もある。
このようにデジタル課税へのOECDの対応は紆余曲折しており、その迷走の原因の1つにDSTの存在がある。現在のアメリカの状況に鑑みると、条約の批准は難しいといわざるを得ない。したがって、日本としては多国間条約の実現に向かって努力するOECDの行動を支持する立場を取りながらも、条約が発効しない場合を視野に入れて、DST導入の可否を含む具体的な対応について考えておくべきという結論に至った。また、OECDやG20だけでなく途上国の動向、とりわけ国連の動きにも今後に注目する必要性が明確となった。