表題番号:2024C-318 日付:2025/03/17
研究課題デジタル化時代における身体と空間の問題:1980年代以降のスイスを手がかりに
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 法学部 教授 高岡 佑介
研究成果概要

 本研究は、1980年代以降インターネットやVR技術が惹起した生活世界の変容と問題群に関する基本的論点を、国内外のメディア哲学、社会学等の文献を読み解くことで明らかにしようとするものである。本年度は研究の基礎作業としてとくに理論的な観点から考察を深めるため、翻訳を含めた諸種の邦語文献の他に、ベルギーの法哲学者アントワネット・ルブロワの統治権力論、ドイツ・スイスで活躍する哲学者アンナ=ヴェレナ・ノストホフとフェリックス・マシェフスキのメディア社会論を取り上げ、検討を加えた。その成果は学内の紀要論文一篇として公開された(高岡佑介「ブラックボックス化と「アルゴリズムによる統治」の行方」『人文論集』(63)、1-22、20252月)。この論文ではルブロワの「アルゴリズムによる統治」論を軸に、デジタル化が引き起こす社会のブラックボックス化の問題を考察した。具体的には、データの認識論的変化、すなわちデータが人間の活動から自然発生的に生成されるようになった現状と、近代以降データ化の実践を担った統計学との比較を通して、ビッグデータ処理におけるアルゴリズムの不可視性と、それが人間の主体性、自由、公共性に与える影響を分析した。とりわけアルゴリズムによる統治が人間の行動の可能性を「先取り」し、断片化された主体を形成する過程を重点的に論じ、忘却・不服従・釈明の権利の重要性を強調することで、デジタル社会における法と個人の関係性について新たな展望を得ようと試みた。

 また、当初、本研究課題では上に挙げた論者の著作の検討に加えて、80年代から90年代に著されたスイスのデジタル化を論じた研究文献の調査、分析を行い「80-90年代のスイスのデジタル社会論」として再構成するという作業目標を掲げていたが、こちらは部分的な着手にとどまった。この点については今後の研究課題としたい。