表題番号:2024C-283 日付:2025/03/31
研究課題日本語アカデミック・ライティングにおける〈一文一義〉の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) グローバルエデュケーションセンター 助手 久賀 朝
研究成果概要
 本研究では、アカデミック・ライティングで用いられる〈一文一義〉という考え方について、言語学的な考察を試みた。
 〈一文一義〉とは、読みやすい文章にするために、一つの文に一つの事柄だけを書くという考え方である。この考え方は、アカデミック・ライティングのみならず、文章作成全般において頻繁に採用されている。それにもかかわらず、詳しい考察が加えられてこなかった。その背景には、「一つの事柄」の範囲が書き手/読み手の解釈に大きく依存するため、一般化が難しいと見なされてきた点が考えられる。
 これを踏まえて、本研究では、まず、〈一文一義〉の再定義を試みた。そこでは、文・節などの言語学的な単位を援用することで、「一つの事柄」を厳密に定義することができる可能性が明らかになった。
 その上で、〈一文一義〉を言語学的に分析するために、語彙・文法の二つの観点から考察を試みた。
 まず、語彙の観点からは、Halliday(1985)の提唱した「語彙密度」や、メンツェラート=アルトマンの法則(Altmann 1980)に着目した。これにより、文中における内容語の比率が〈一文一義〉と関係している点が示唆された。
 次に、文法の観点からは、南不二男(1993)の提唱した「複文の階層性」という考え方に着目した。これにより、複文の階層レベルがA類→D類と高くなることに比例して、節の中に取り込むことができる要素も多くなるため、〈一文一義〉が損なわれやすい可能性が明らかになった。これと付随して、読点の打ち方と文の長さの関係性にも着目した。
 以上を踏まえて、今後は、本研究で取り上げた理論を実際の学術論文に当てはめ、分析を行う予定である。