表題番号:2024C-278 日付:2025/01/26
研究課題高等学校での探究型学習における数学的知識の学習過程の分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 本庄高等学院 教諭 成瀬 政光
研究成果概要
 本研究の目的は,高等学校数学科の「数学Ⅲ」の授業に探究型授業を導入するための条件を検討することである。本研究では教授人間学理論 (ATD) を拠り所とし,探究をStudy and Research Path (SRP) という枠組みにより捉える。本研究の一連の作業は,(1) 基本認識論モデルの構築;(2) 基本認識論教授モデルの構築;(3) 基本認識論教授モデルを参照した授業設計と実践;(4) 導入可能性の検討である。
 今年度は主に作業 (3) を実施した。本研究ではこれまでに,作業 (1) および (2) により,定積分がどのような“本性”をもち,どのような過程を経て学習されうるのかという認識論的分析が完了している。一方で,これまでの作業を通じて得られたモデルは,定積分の理論的背景を追究する過程を詳細に記述することが難しいことが課題となっていた。
 そこで今年度は,ATDにおける「モデリング」の概念を通じて,探究において理論的背景が深まる過程を記述することを試みた。一般の意味の「モデリング」は何かしらの現実的な事象を数式によって定式化することが中心となるが,ATDの「モデリング」はある対象がどのように説明されうるのかという関係を示すため,より広い意味合いをもつ。そのため,理論面の追究をモデル化できると考えたのである。今年度の作業では,基本認識論教授モデルにおいて定積分の理論面を追究する過程をATDのモデリングの概念によりより詳細に記述した。その結果をもとに授業設計・実践をした。その結果,ATDのモデリングの概念は数学的知識の深まりを記述することができるものの,探究における理論面の深まりはモデリングの概念とATDのメディア・ミリューの往還という二つの概念を合わせて分析することにより分析が可能になるという知見を得た。この知見は,探究型授業を設計するための示唆を与えてくれるだろう。
 今年度の作業で得られた成果は,国内の数学教育学会の口頭発表および論文投稿によって敷衍した。