表題番号:2024C-237 日付:2025/04/04
研究課題米中対立が国際法(特に海洋法)の形成発展に与える効果についての基礎的考察
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 国際教養学部 教授 池島 大策
研究成果概要

 昨今の米国と中国との海上における覇権を巡る対立は、海洋に関する国際的なルール作りにも様々な影響を及ぼしてきた。南シナ海を巡るフィリピンと中国の争いは、2016年に仲裁裁判所(PCA)で裁定が行われたにもかかわらず、紛争そのものは決着していない。しかも南シナ海でASEAN諸国と中国とが20年以上続けている協議において、未だに法的拘束力のある行動綱領(Code of Conduct)は締結されていない。同年12月、米国の海底無人探査艇(ドローン)が中国の主張する(南シナ海の)海域において海洋調査活動をしているところを中国の沿岸警備当局が発見・拿捕し、米国に返還したことが報じられている。こうした直接的な軋轢や摩擦は、国連海洋法条約(UNCLOS)の解釈の相違から生じるものであるとはいえ、その背景には米中両国による西太平洋海域における海洋覇権を巡る争いがあることがわかる。こうした背景は、太平洋だけに限っても、近時注目される南太平洋の島しょ国における、地球気候変動による海面上昇に伴う影響の深刻度合への懸念がある。しかも、これらの小さな島しょ国グループに対する米中から送られる秋波によって、ルール作りや勢力圏の拡張といった事情も絡んでいる。こうした中で、近時、これらの島しょ国は、国際司法裁判所(ICJ)や国際海洋法裁判所(ITLOS)といった司法機関による勧告的意見を通じて、地球気候変動が海面上昇に及ぼす影響に伴う国際法上の疑問を明らかにする方途を選んだ。この選択は、(1)司法機関の勧告的意見を通じた問題解決への新たな局面を切り開く可能性を示したこと、(2)米中のような強大国の影響を極力排除する中で島しょ国の置かれた状況に対する世界的な注目度を高め、解決機運を高めるのに一定の効果があること、そして、(3)最終的には当該法的争点に関わる権利義務関係の明確化・具体化を法の解釈適用によって突き詰める努力が見られたことにつながったと評価できる。このように、間接的ながら、米中とは一定の距離を置くことで対立に巻き込まれないようにする島しょ国の存在やその動きは、海面上昇に関する国際ルールの形成過程にも一定の影響を与えつつあると考えられる。