表題番号:2024C-226 日付:2025/02/04
研究課題スポーツのオンライン観戦における一体感の創出
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 人間科学部 准教授 野村 亮太
研究成果概要
本研究の目的は,観客間相互作用の観点から,スポーツのオンライン観戦における一体感を高める手法を提案することであった.球場やスタジアムでのスポーツ観戦において観客は,周囲の観客の歓声を聞いたり,一緒に動くのを目にしたりすることで一体感を感じると考えられる.しかしながら,オンライン観戦では個人で鑑賞することも多く,観客間相互作用は限定的である.このことがオンライン観戦の満足度を低下させる要因の一つとなっていることが指摘されている.
本研究では,二つの異なるアプローチによる実証研究から,観客間相互作用が一体感を高めるメカニズムを検討した.一つ目の研究では,野球をパブリックビューイング形式で鑑賞する8名の観客間の距離を操作した.その結果,観客間の距離が近い(=密度が高い)条件では,遠い条件に比べて興奮や鳥肌が生じる感覚についての主観的評定値が高まり,一体感をより強く感じることが明らかになった.ただし,心拍指標では条件間に差はみられなかった.二つ目の研究では,オンライン視聴環境において観客間相互作用を再現するために,Jリーグのサッカースタジアムで収録した振動音と群衆音を収録して,62名の実験参加者に提示する実験を行った.その結果,通常のオンライン視聴状況に加えて,振動音と群衆音の両方を付加した条件においてのみ,視聴環境の体感(例:「スタジアムで感じるような臨場感を感じた」など)および観戦時の体感(例:「画面越しに『選手と私』が,リアルタイムで喜びを共有しているような感じがした」など)について主観的評定値が高くなっており,一体化を再現できたと考えられる.ただし,この研究でも心拍指標では条件間に差は見られなかった.
二つの研究を通して,観客間相互作用の観点からは,視聴者同士の距離を近くに配置して影響力を強めることやスタジアムの振動を付加することよって擬似的な相互作用を再現することが一体感に寄与することが明らかになった.ただし,必ずしも心拍の変動には寄与していなかった.今後は,体験を捉える生理指標などについても検討していく.
本研究の成果については,2025年度に論文や学会発表として公刊予定である.