研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 人間科学学術院 人間科学部 | 助手 | 町田 規憲 |
(連携研究者) | 人間科学学術院 | 教授 | 田山淳 |
- 研究成果概要
過剰な不安・心配に伴って臨床的に意味のある苦痛と社会機能障害を経験する難治性精神疾患として,全般不安症がある。全般不安症のアナログ状態像である「高心配性者」は,医学的診断を得ていないものの,臨床症状と社会機能障害の双方で全般不安症と量的連続性がある。全般不安症では不適応的な情報処理であるCognitive Attentional Syndrome(CAS)が中核として想定されており,注意機能の個人差がCASと独立して社会機能障害に影響することが示されている。しかし,注意機能は測定法によって異なる側面を反映しており,測定法や定義の相違によって知見が混乱している。その中でも,認知機能パフォーマンスである実行注意制御の能力だけでなく,日常生活場面における注意(注意方略)の重要性が示唆されている。実際に,報告者の研究にて,それらが高心配性者のCASと社会機能障害を独立して制御しているプロセスが示された。一方で,これらの標的変数を実験的に操作した場合の社会機能障害への効果と作用機序の実証的検討は進んでいない。従って本研究では,高心配性者を対象に,メタ認知的信念と実行注意制御のみを操作する場合,そこに注意方略の操作を付加する場合の比較検討を実施した。
臨床的に意味のある水準の社会機能障害を呈する高心配性者35名を対象とした。初日(Baseline)と介入後(Post)のそれぞれで,両群で認知課題の測定と,1週間のEcological Momentary Assessment (EMA) を実施した。結果は,心理尺度とEMA指標のアウトカム指標およびプロセス変数の変化,認知課題の変化を主として解析した。
アウトカム指標の解析の結果,両群で社会機能障害をはじめとする各種指標が有意に低減していたが,群差はみられなかった。一方で,注意方略やCASをはじめとするプロセス変数では有意な群差がみられ,注意方略を付加した群でより大きな改善がみられた。
以上をふまえて,注意方略のより実験的な測定と,関連が想定される変数の中での位置づけの検討,およびそれに基づく精緻な実験操作による変化の検討が求められている。今後はそれらのデータを収集し,認知情報処理の基礎知見との統合的理解と臨床知見の発展を目指す。