表題番号:2024C-211
日付:2024/08/31
研究課題地中海越え移民の軌跡
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 人間科学学術院 人間科学部 | 教授 | 樋口 直人 |
- 研究成果概要
- 本研究では、地中海越え移民が「なぜ」」「どこに」とどまる/向かうかをリサーチ・クエスチョンとして、多地点へと向かう/に定住するメカニズムの解明を課題としていた。2024年夏に、主にイタリア・シチリア州(パレルモ、カターニア)で調査を行った。現地での検討の結果、バングラデシュ人移民に現地して調査を行うことにした。まだ聞き取り件数が十分な数に達していないので暫定的な知見だが、以下のような見通しが得られた。(1)シチリアは、地中海越え移民にとっての欧州の玄関口であり、そうした経路でイタリアに渡るものは多い。しかし、そうした者がシチリアに居住する期間は短く、多くが知己を頼ってつてのある都市へと移動する。逆に、シチリアにいる者は単に地理的な要因(アフリカから一番近い欧州)で来るわけではなく、シチリアにいる知人を頼ることが多い。非正規な経路を経て欧州に渡る者にとって、重要なのは特定都市の賃金水準や労働需要一般ではなく、どんな仕事であれ紹介してくれる知人がいるかどうかである。その意味で、イタリアでもっとも所得水準が低いシチリアにバングラデシュ移民が多くいるのも、経済資本よりは社会関係資本の蓄積によって説明できる。(2)シチリアでの非正規移民の労働市場は、かなり細かいニッチに分かれている。パレルモ近郊のビーチリゾートで海水浴客に浮き輪などを売る商売をしているのも、モンデッロとカンポフェリーチェではバングラデシュ人、チェファルーではモロッコ人といった具合にテリトリーを形成している。パレルモでカバンや帽子などを売る露天商はバングラデシュ人が多いが、カターニアではブラックアフリカ出身者が多い。これは、属性に関係なく市場メカニズムが働く状況とは異なり、インフォーマルなビジネスがエスニックな紐帯を通じて発展してきたことによると思われる。