表題番号:2024C-210 日付:2025/04/11
研究課題戦後の小津映画をめぐる国内外の受容状況の包括的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 人間科学部 教授 福島 勲
研究成果概要

 戦後の小津映画については、家族愛というテーマの繊細な描写や、映画技法上の美学的卓越が世界的にも評価されている。なるほど、こうした評価が小津映画の時代と場所を超えた普遍的な価値を証することに寄与しているのは確かだが、その一方で、戦後の小津映画が持っていた、敗戦という経験が色濃く残る時代と場所(「かつて、そこ」)で作られたという特殊性の方はむしろ捨象される傾向にあるように思われる。以上の視座のもと、本研究では、戦後の小津作品を非=時間・非=場所的なテクストとして緻密に読み解くだけではなく、戦後の小津映画の受容で不可視となりつつある時代と場所という作品が位置するコンテクストを改めて可視化し、テクストとしての作品とそれが位置するコンテクストとを包括的する受容のあり方を考察した。

 具体的には、小津安二郎が9歳のときに移り住んだ松坂に焦点を合わせ、小津安二郎松阪記念館(松坂市立歴史民俗資料館2階)と、小津が代用教員を務めた現松阪市飯高町の宮前尋常高等小学校跡地にある小津安二郎資料室、また下宿先、花岡神社の調査を行った。その結果、松阪市が小津安二郎を町の一つの文化資源として位置づけているのを確認できたとともに、小津安二郎資料室では、作品に登場する学校や児童のイメージの源泉が飯高での体験にあった可能性が高いという貴重な意見を聞くことができた。