表題番号:2024C-209
日付:2025/02/20
研究課題近現代の地域社会における自然災害被災者に対する救済策に関する歴史社会学的研究
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
---|---|---|---|
(代表者) | 人間科学学術院 人間科学部 | 教授 | 武田 尚子 |
- 研究成果概要
- 本研究では、明治期に設立された「東京市特殊小学校後援会」に着目し、歴史的アーカイブを用いて、近代東京における自然災害被災者への救済策に関する歴史社会学的研究を行った。「東京市特殊小学校後援会」設立の契機になったのは、明治40年8月下旬に関東甲信越で発生した大規模な水害である。東京市でも東部を中心に広範囲にわたって浸水した。とくに浅草区、下谷区、本所区、深川区の被害は深刻で、東部の浸水家屋は6万戸と報道されている。東部の直営小学校4校(玉姫、三笠、霊岸、萬年)の在校児童が多数被災した。被災児童救援のため「特殊小学校児童救護会」が組織され、翌月9月21日の雑誌記事に設立目的と会則、直営小学校児童の被災状況が掲載されている。救護会の発起人は東京市の教育課長や名誉職である。幹事は教育課長と直営小学校4校の校長である。事務局は東京市役所内におき、篤志家の寄付を募った。義援金の使途は被災児童への被服・履物の支給、疾病医療費の補助である。水害による緊急の救済活動を終えると、193円の余りが出た。「特殊小学校児童救護会」の事務局は東京市役所におかれていたので、残金193円の処理について、幹事になっていた教育課と直営小学校校長が検討したのだろう。直営小学校への公的予算は限られているので、残金は直営小学校の児童の教育に生かしたいというのが教育関係者の要望だったと推測される。水害の翌年、明治41年4月、東京市教育課は直営小学校6校の校長と残金193円について協議し、明治43年7月に「東京市特殊小学校後援会」が設立された。水害が契機になって被災児童への緊急救援の臨時活動が行われ、「自主財源」の調達が可能であることが認識され、東京市直営小学校の教育的機能、生活支援機能の維持に自主的財源を投入する持続的な社団が組織された。