表題番号:2024C-195
日付:2025/04/01
研究課題イギリス労働者教育協会(WEA)のシティズンシップ教育実践についての思想史研究
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 社会科学総合学術院 社会科学部 | 准教授 | 寺尾 範野 |
- 研究成果概要
- 本研究は、近現代イギリスにおけるシティズンシップ概念の社会思想史的研究の一環として着手されたものである。思想史的アプローチによる従来のシティズンシップ研究は、共和主義的アプローチにせよ自由主義的アプローチにせよ、国民国家とデモクラシーの進展との関係から、シティズンシップを市民の政治参加の問題として、あるいは政治に参加する市民に付与される権利と義務の問題として、政治学的に研究されることが主であった。これに対して本研究では、国政とはかならずしも直接関連しない、家族・地域・職場といった「社会」領域において、「市民」として必要な知識・技能・倫理は何かという問題をめぐる、いわば「社会領域のシティズンシップ思想」が19世紀終盤以後のイギリスで活発化したことに着目し、その思想内容と社会実践を研究対象に据えた。1906年に発足したイギリス労働者協会(WEA)は、労働者のための高等教育・生涯教育を普及させることを目的に教育改革者アルバート・マンスブリッジによって設立された。WEAは、教育機会の限られていた成人労働者に質の高い人文・社会科学の教育を提供することと並び、労働者を単なる技能労働者ではなく、職業生活を通して地域社会と国民経済の発展に主体的に寄与する道徳的「市民」として育てることを目的とした。このためWEAは、近現代イギリスにおける「社会領域のシティズンシップ思想」の格好の研究対象であると言える。2024年度は、WEAの活動の思想史的コンテクストとして、T.H.グリーンやバーナード・ボザンケら世紀転換期イギリス理想主義のシティズンシップ思想、および、グリーンらから影響を受けつつWEAの中心人物となった社会主義者R.H.トーニーの思想と実践について、それぞれ研究を進めた。これらの研究成果は、2025年度に出版が予定されている単著の各章に反映される。加えて、イギリス理想主義とWEAの関係にくわしい台湾中央研究院の李峙皞研究員にコンタクトを取り、資料提供と研究遂行上の助言をいただき、今後の国際共同研究の可能性を含めた有益な意見交換を行った。