表題番号:2024C-180
日付:2025/04/04
研究課題中国のTODに関する包括的研究:開発利益公共還元政策の検証を中心に
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 理工学術院 国際理工学センター(理工学術院) | 教授 | 北野 尚宏 |
- 研究成果概要
- 本研究は、中国における公共交通指向型開発(TOD)に関し、主に①開発利益公共還元制度、②日本など諸外国の経験の適応、③軌道系交通やTOD事業の海外展開の現状について明らかにすることを目的としていた。①については、58 都市で軌道系交通が整備される一方地方政府への財政圧力が高まる中で、政府単独投資からPPPはじめ投資主体を多元化する様々なモデルが試行されている。例えば、成都市では都市鉄道駅総合開発用地管理弁法が施行され、鉄道会社が地方政府と開発計画に基づき駅周辺の土地を確保し、不動産会社などをパートナーとしてTOD事業を実施している。その結果、2023年の鉄道会社の収入は駅総合開発が63%、鉄道収入が25%となっており、TODによる開発利益が鉄道投資などに還元され始めたことを示唆している。②については、中国は、1980年代より日本の都市軌道交通の経験を国際協力機構(JICA)の開発調査や円借款事業を通して学んできた。民間ベースでも、日本の不動産企業、建築設計事務所が国内での経験に基づき、上海、成都、広州はじめ多くの都市のTOD事業に参画している。成都市では、成都市軌道交通TOD総合開発戦略計画(2021)の中で、成都モデルを創出するために、東京やシンガポールの開発経験を深く掘下げて研究することが課題として挙げられている。③については、中国政府は開発途上国の債務問題などにより減速した「一帯一路」構想(BRI)の政策調整を行い、大型インフラプロジェクトの質を高めると共に「小さく優れた」民生プロジェクトを優先する方針を導入した。中国は、パキスタン・ラホール、ベトナム・ハノイなどで都市軌道交通プロジェクトの建設・運営に協力しているが、TOD導入面での取組は確認できなかった。一方で、エチオピア・アディスアベバLRTのように維持管理に深刻な問題を抱え所期の効果を発揮していない事例もある。中国は、こうした既往プロジェクトの問題に対処すると共に、今後、上述の方針に則して、例えば民生に直接裨益する住宅開発と都市軌道交通を組合わせた協力を展開する可能性はあり得ると考える。