表題番号:2024C-176 日付:2025/03/24
研究課題新規ヘパトカインによる新しい血糖調節機構の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 先進理工学部 教授 合田 亘人
研究成果概要

我々は2型糖尿病のマウス肝臓で発現上昇し、耐糖能を改善しうる新規ヘパトカインとしてニューレグリン1を見いだしてきた。また、ニューレグリン1が切断・分泌され、膵B細胞に働きかけ、膵B細胞増殖を活性化することで、抗糖尿病作用を示すことを明らかにしてきた。今年度は、膵B細胞におけるニューレグリン1の作用発現にかかわる分子機構について検証した。正常マウスに大腸菌で作出したニューレグリン1タンパク質を投与すると、膵臓のERBB3およびその下流にあるERKのリン酸化が亢進することを見いだした。また、ERBB2のリン酸化も増強する傾向が認められた。しかしながら、ERBB1ERBB4AKTのリン酸化は変化しなかった。初代培養マウス膵島細胞をニューレグリン1タンパク質で刺激すると細胞増殖マーカーKi-67陽性細胞の割合が有意に増加することが分かった。この細胞増殖活性化はERBB1/2阻害剤とERBB3阻害剤で完全に抑制された一方で、ERBB1阻害剤では抑制されなかった。さらに、PI3K-AKT細胞内シグナル阻害剤でもニューレグリン1による細胞増殖活性化は抑制されなかったが、ERK阻害剤で抑制されることを見いだした。そこで、膵B細胞特異的ERBB3遺伝子欠損マウスを作出して、食餌投与により2型糖尿病を発症させた。その結果、この欠損マウスでは膵B細胞増殖の低下を伴った膵島肥大の抑制が認められた。また、糖負荷試験ではインスリン追加分泌の低下を伴った耐糖能の増悪が認められた。以上の結果より、ニューレグリン1は膵B細胞のERBB2/3受容体に結合し、細胞内MEK-ERKシグナル経路を活性化することで、膵B細胞増殖を活性化することが分かった。また、この応答が傷害されると、代償性膵島肥大が起きず2型糖尿病が増悪することを見いだした。肝臓から分泌されるニューレグリン1は膵B細胞に働きかけ膵B細胞増殖を活性化することで抗糖尿病作用を発揮するヘパトカインであると結論づけた。