表題番号:2024C-165
日付:2025/04/04
研究課題不斉酸化による動的速度論的光学分割を伴う、新規リン不斉中心構築法の開発
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 理工学術院 国際理工学センター(理工学術院) | 准教授 | 山本 佳奈 |
- 研究成果概要
リンに不斉中心のある化合物は、不斉触媒や核酸医薬品など広く利用されるが、主要合成法(不斉補助因子を用いる方法や光学分割)は収率や廃棄物の面で問題であった。一方、最近に開発された触媒的リン不斉中心構築法は、汎用性に課題が残る。そこで、当研究室ではリンの不斉酸化による動的速度論的光学分割によるリン不斉化合物の合成法開発に取り組んでいる。研究期間中では、これまでの最適条件(選択性27%ee.)を基準として、立体選択性向上を目指し、反応条件の検討を行った。
先ず、これまでに得られた触媒構造と立体選択性の相関関係を検討し直し、嵩高い置換基が必要であるとした触媒部位に、さらに嵩高い置換基を導入した触媒を4種類合成し、不斉酸化反応の挙動を調べた。しかし、反応速度が著しく低下した他、期待に反し立体選択性は低下した。これは、上述の2つの反応経路の内の高選択性と思われる反応経路の速度が低下してしまったため、相対的に低選択性経路の反応が優位になったためと思われる。
一方、反応条件(溶媒、アミン添加剤、濃度)の更なる精査を行なった結果、アセトニトリル中で35〜42%ee.とこれまでの最高の値が得られることを見出した。また、これまでの最適溶媒であるクロロホルム中では立体選択性が反応中に上昇を続けることから、二つの経路が同時進行していることを、基質異性体のそれぞれを不斉酸化する対照実験により実証した。アセトニトリル中では、それに反して経路が一つの不斉反応(通常の反応)に近い挙動(転換率50%近傍で立体選択性が最大値に達し、反応完結時にゼロに近くなる)を示した。これにより、二つの反応経路のうちの一つが何らかの原因で阻害されたことが示唆された。
まとめると、これまで最大27%であった立体選択性を42%に向上させることに成功した。高い選択性は得られなかったが、これまでに見落としていた溶媒効果と添加剤効果を見出した。現在これらの組み合わせた条件を検討している。