表題番号:2024C-142 日付:2025/04/02
研究課題異国趣味と音楽:オペラにおけるスペイン表象を中心に
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 創造理工学部 准教授 岡田 敦美
研究成果概要

本研究は、オペラ(歌劇)におけるスペイン表象に関する基礎的研究であり、従来行ってきた、他国の描写や記述といった他者表象を中心としたメディア研究の延長線上にあるものである。クラシック音楽の中で、オペラとは、物語性を有し、言語を用いて表現される特徴を持ち、概ね19世紀に頂点を迎えたジャンルであり、イタリアやドイツにその中心があった。

スペインは、サルスエラ(zarzuela)と呼ばれる独自の様式と音階を持つ独自の音楽劇(あるいはオペレッタ)を発展させてきたため、オペラそのものの展開においては、作品作りの主体というよりもっぱら客体やモチーフとしての役割を果たした。オペラがロマン主義の時代に大きな発展を遂げたために、ロマン主義が好んで用いた異国趣味的なモチーフはオペラの物語における重要な要素となり、ヨーロッパにありながらイスラム王朝とい異文化の歴史を内に持つ南欧スペインが、オリエント(中東)やアジアと並んでオペラの舞台となったり物語の中でモチーフとなった作品は多岐に渡った。

多くのオペラ作品を渉猟・鑑賞し、その物語展開や歌詞(台詞)を分析して、スペインあるいはスペイン人を取り上げている作品を抽出することができた。スペインを主題あるいは主たる舞台とする著名な作品(ロッシーニ、ビゼーなど)以外にも、スペイン人(例えばスペイン王)が登場したり、物語の舞台となった作品としては、モーツァルト、ベートーヴェン、ヴェルディ、ワグナー、ウェーバー、ラベル、アントニオ・ゴメスらの作品を挙げることができるが、いずれの作品も、非スペイン人作曲家のものであり、ジャンルは喜劇、オペラ・セリア、歴史物など幅広い。セビリアという南部性や、暴君や圧政は、スペインに付随して好んで用いられたモチーフであった。