表題番号:2024C-141 日付:2025/03/31
研究課題メルヒェンの翻訳をめぐる諸問題
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 創造理工学部 教授 西口 拓子
研究成果概要

19世紀の初頭にグリム兄弟が刊行したメルヒェン集は、ヨーロッパではすぐに複数の言語に翻訳された。アジアにおいても、19世紀末の日本を皮切りに多くの国の言語に翻訳され、現在でも愛読されている。グリム童話の場合は、原語はドイツ語であるが、初期の受容においては、重訳が行われたケースも少なくない。最初期には、英語を介してフランス語に、さらにそれがポルトガル語に翻訳されたケースもあった。世界的にみても、英語が底本となっているケースが多い。アジアでは、韓国のグリム童話受容に関して2021年に民俗学研究の専門誌で特集が組まれたこともあり、近年研究が盛んに行われているが、それらを調査したところ、現在判明している限りではグリム童話の翻訳は20世紀初頭であり、最初期の底本となったのは日本語訳であることが確認されている。近年韓国で刊行された全訳版で、ドイツ語からの翻訳とうたっている翻訳においても、構文に英語を感じさせる訳文から、英語版が底本に使われたことが推測されている。さらに翻訳書が子どもの読み物として刊行される場合には、編者による改変が行われるケースが多い。それが重訳である場合には、翻訳に用いた底本ですでに改変が行われていた可能性があり、ターゲット言語を含め三通りのテクストの比較考察を行うことが必須となる。大正期に刊行された金の星社のグリム童話翻訳は、テクストには原典との相違点が多数みられるが、それは底本の英語版での改変であることを、今年度に執筆した拙論「金の星社『グリム童話集』の翻訳と底本」で示した。邦訳は英語版をほぼ忠実に翻訳したものだったのである。アンデルセンの童話の状況も似ており、デンマーク語であるがゆえに、重訳の可能性がさらに高く、初期は、ドイツ語、フランス語、英語を経由していた。デンマーク語版を基盤とした貴重な研究も発表されており、その研究をふまえた論考(ドイツ語)は夏に公刊予定である。