表題番号:2024C-092 日付:2025/03/09
研究課題低所得世帯の経済的不安感とリスクへの準備状況に関する分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 大学院会計研究科 教授 大塚 忠義
(連携研究者) 商学学術院 非常勤講師 谷口豊
(連携研究者) 八戸学院大学地域経営学部 准教授 崔桓碩
(連携研究者) 日本大学商学部 教授 岡田太
研究成果概要
 低所得世帯は毎月の家計変動が大きく、けがや病気などの生活リスクが顕在化した際の家計への影響が相対的に大きい。よって、低所得世帯が生活の困窮を回避するには、低所得世帯以外に比べより生活リスクに対しての事前の準備が必要である。しかし、低所得世帯は生命保険の加入率が低いことが確認されており、生活リスクの準備ができていない状況である。
 前研究では低所得者の生活リスクの準備行動について構造的に分析を行い、生活リスクに対して保険・共済に加入して準備を行っている/いない場合の要因の特定を試みた。その結果、当該世帯に共通する2つの特性を明らかにした。ひとつが家計であり、もうひとつがアドバイスの有無とその相手である。家計に関しては所得が少ないという属性に加えて、家計の支出構造と変動が生活リスクへの対応に影響を与えていることを確認した。また、相談相手の有無に関しては、不安感が少ない人はリスクを過小評価している傾向にあり、リスク過小評価の人は相談しない傾向があり、相談しない人は保険・共済に加入しないというパスの存在を確認した。また、低所得世帯で生活リスクに対する準備を行っている要因に関し、保険加入と共済加入で差異が存在することも前研究で得た知見である。しかし、生活リスクに対して準備を行っている/いない場合の要因を明らかにすることはできたものの、そこに至った行動様式、特に保険と共済とでの加入行動の差異を解明するには至っていない。
 本研究では、前研究で得られた結果・推測について、低所得世帯とそれ以外の世帯の状況を比較することで異なる側面から確認する。さらに、これらの分析結果をもとに作成した仮説とリサーチクエスチョンに対し、低所得世帯を対象にしたアンケート調査を実施することで、保険・共済に加入する/しないことに至る行動様式、そして、保険と共済とでの加入行動の差異を解明することを試みた。
 その結果、本稿で立てた仮説「低所得世帯の保険・共済加入が低いのは加入勧奨の機会が少ないため」「インターネット加入などが整備されより安価な保険加入できる状況でも共済加入を選択する理由は、自律的な加入行動は起こりにくく親族からの加入勧奨があるため」について一定の確認を行うことができた。すなわち、営業職員との接触の有無が保険・共済加入率に影響を与えている可能性が確認された。もう一つの仮説として設定した「低所得世帯で家族に相談できる世帯は、共済に加入するというパスが存在し生活リスクの軽減を行っている」に関しても、そのような傾向が一定はみられた。しかし、その理由として挙げた「共済加入者は「助け合い」の志向があり、特に家族間の絆は強い傾向にある」という傾向は確認できなかった。共済加入に際しては掛金が安いことが最大の要因であると考えられる。