表題番号:2024C-081 日付:2024/11/10
研究課題パリ大都市圏における都市公共交通の整備と都市化(1870年代~1930年代)
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 商学部 准教授 國府 久郎
研究成果概要
 パリ大都市圏の研究に関しては、高橋伸夫他編『パリ大都市圏―その構造変容―』(1998年)が現在でも基礎文献の一つとなっているが、その内容は第二次世界大戦後の地域構造の変化に主眼が置かれている。19世紀以降の状況に関しては、セーヌ河の海上交通、地下鉄、バスなどの各交通手段に関する歴史研究が国内外で近年行われてきた。しかしながら、利用者が最も多い時期があった路面電車などの地上交通も含めたパリ都市公共交通史に関する総合的な研究が未だ行われておらず、都市化との関連性も不透明なままである。

 本研究はフランスの歴史学や地理学の蓄積を基礎としながら、パリ大都市圏における都市公共交通整備の全体像を明らかにし、都市化との関連性を考察することを目的としている。今回の調査では、1870年代から1930年代までの期間を対象とする。この期間は大部分の住民が自家用車を所有せず公共交通機関に依存しており、都市公共交通の本来の役割を明確にすることができる。そして、パリ大都市圏に関する総合的な歴史研究によって、日本の大都市圏、特に東京大都市圏の都市公共交通の今後のあるべき姿について考えるうえでの示唆を提供することを目指すものである。

 本年度はパリ郊外マラコフ地区の史料を分析し、リヨンやマルセイユの郊外地区とは異なり、街区委員会のような住民組織が形成されていた痕跡は確認できなかった。その代わりに、区長が中心となり、路面電車路線の新設や増設など、住民生活に直結する内容の要望をパリ市議会に伝えていた。住民組織が形成される代わりに区の代表者が要望を伝えていた事象はどの程度普遍的なものなのかを、他の郊外地区でもさらに調査を行う必要があり今後の課題としておきたい。