表題番号:2024C-077 日付:2025/03/31
研究課題日本企業によるクロスボーダーM&Aブームはなぜ発生したのか
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 商学部 助手 飯野 佳亮
研究成果概要
 2010年以降、日本企業によるクロスボーダーM&Aが持続的に急増し、ブームの様相を呈している。国内市場が縮小傾向にある中で、多くの日本企業は成長機会を求めて海外展開を加速している。ここで、M&Aに関する定式化された事実の1つとして、M&Aは波(wave)のようにブームで発生することが知られている。そして、M&Aブームの解明は、コーポレートファイナンスの重要な課題の1つとされ、米国を中心に研究が活発に行われてきた。しかしながら、多くの先行研究は国内M&Aを前提としており、クロスボーダーM&Aブームについて分析した研究は海外でも発展途上である。本研究の目的は、日本企業によるクロスボーダーM&Aをブームという観点から分析し、その発生要因と経済的帰結を実証的に解明することである。
 分析の結果、以下の3点が明らかにされた。第1に、先行研究と同様にモンテカルロシミュレーションを用いてブーム期を特定すると、日本企業によるクロスボーダーM&Aは、特定の時期に一部の産業で集中して実施されていた。この結果は、欧米諸国や日本の国内M&Aと同様の傾向である。第2に、日本のクロスボーダーM&A急増における主要な要因は、収益性の向上といったプラスの産業ショックと、資金流動性の増加であった。この結果は、先行研究と同様で、日本でのクロスボーダーM&Aの急増が基本的に新古典派理論によってある程度説明できることを示す。また、円高というマクロ経済環境による影響も大きかった。円高による海外企業の資産価格低下は、実施のハードルを引き下げ、クロスボーダーM&Aを促進していた。第3に、クロスボーダーM&A実施後のパフォーマンスを見ると、ブーム期は非ブーム期と比べて短期的には企業価値を創出しているとは限らず、中長期で見ると、非ブーム期と比べて業績が低下していた。この結果は、ブーム期には非合理的なクロスボーダーM&Aが実施されている可能性を示唆するものである。