表題番号:2024C-057 日付:2025/04/04
研究課題リチュアル・シンタックス理論を用いたエジプト中王国時代の儀礼研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文学部 講師 山崎 世理愛
研究成果概要

これまで古代エジプトの儀礼は、おもに文字・図像資料から思想的背景が深く研究され当時の豊かな精神文化が解明されてきた。その一方で、儀礼の構造に関する分析は少なく、儀礼の通時的な変遷を客観的に追うことが困難であった。儀礼構造の研究では、通過儀礼モデルが援用されることはあるものの、儀礼を構造化する規則の抽出などはされてこなかったのである。こうしたなかでヘイズは、古代エジプトの儀礼に通過儀礼モデルは適用できないと指摘し、スタールのリチュアル・シンタックス理論が今後のエジプト学における儀礼祭祀研究に有用であると主張した(Hays 2013)。

そこで本研究ではヘイズによる提唱をもとに、意味論的な解釈ではなく儀礼を構造化する規則を解明し、再構築され続ける儀礼の通時的な変遷を客観的に追うことを目的にした。具体的には、中王国時代の器物奉献儀礼についてリチュアル・シンタックス理論を部分的に用いて分析した結果、死者の神化という宗教的な意味を保持しながら、省略や埋め込み、再帰といった規則によって構造が変化していくことが判明した。そしてこうした構造の変化の背景には、この儀礼のもつ宗教的意味や社会的機能の強化があった可能性を指摘した。とくに、中王国時代後期になると王族を頂点とする格差が明確にこの儀礼にあらわれるようになるのである。今後は儀礼の構成や構造に関する分析を下地にしながらも、宗教的意味も含む儀礼全体を解釈することで、当時の社会における儀礼の実態により一層迫ることができると考えられる。

引用文献

Hays, H. 2013 The End of Rites of Passage and a Start with Ritual Syntax in Ancient Egypt. RSO Supplemento 2: 165-186.