表題番号:2024C-054 日付:2024/10/24
研究課題近世東アジアと日本における宣教美術の展開
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文学部 教授 児嶋 由枝
研究成果概要

 カトリック改革期(抗宗教改革期)から西洋植民地主義がピークに達した19世紀にかけての宣教美術研究は1990年代以降、めざましく進捗している。中南米美術のみならず、ムガール朝インドや東アジアにも射程を広げた議論が進められている。一方、日本における宣教美術の受容と展開に関しては、一定の時代やテーマに焦点をあてた研究が単発的に発表されてきたといえる。報告者はこうした状況をふまえ、日本における宣教美術の展開を再構築するととともに、それを海外の宣教美術、とりわけ東アジアにおける宣教美術という文脈の中において包括的に考察する研究を進めている。日本が孤立して宣教美術を受容したのではなく、宣教師や商人を介して他の東アジア地域とゆるやかに交流しながらに日本独自の宣教美術が展開されたのである。

本特定課題研究においては、とりわけマカオおよびマニラとの関係に注目し、16世紀末に日本で創設されたいわゆる日本のイエズス会画派の東アジアのへの展開について調査を進めた。イエズス会によって日本に派遣されたイタリア人イエズス会士で画家のジョヴァニ・コーラが長崎等で主催して、西欧絵画技法を伝えた画学舎で学んだ日本人画家たちの聖像は日本のみならず、マカオやマニラにも見出されることが判明してきているのである。具体的には、マカオやマニラでの現地調査とともに上智大学キリシタン文庫と長崎の26聖人記念館にあるイエズス会一次史料写しの調査を進めた。そして、日本のイエズス会画派に帰される絵画が、日本のみならずマニラとマカオにも存在する背景として、大航海時代におけるポルトガル系イエズス会とスペイン系托鉢修道会の太平洋西端における活動は当然のことながら、より大きな要因は、16世紀後半から俄かに盛んとなっていった日本、マカオ、そしてマニラ間の交易であったことを明らかにすることができた。