表題番号:2024C-048 日付:2025/04/04
研究課題〈社宅都市〉大牟田における炭鉱・関連企業の労働者・家族に関する質的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文学部 教授 嶋崎 尚子
研究成果概要

本研究は、三井三池炭鉱と関連会社を擁する〈社宅都市〉大牟田を対象に2点を検討した。第1に、三井三池炭鉱の社宅管理主体が、企業整備を契機に会社から組合に転換したことによる社宅地区コミュニティの持続と変容、第2に、関連各社の産業特性・労働特性と社宅コミュニティの関連性の整理、の2点である。なお、本研究は2023年度住総研研究助成(代表:嶋﨑)の後継課題である。

具体的には以下の過程を確認した。1952年「六三スト」後の労組地域分会の設立、53年「英雄なき113日の闘い」以降の三池炭婦協の設立、世話方制度の廃止、社宅封鎖の解除等が進められた。その後、三池闘争終結(1960年)まで、社宅は闘争の拠点として、職場分会とは独立して、重要な機能を果たした。いわゆる「家族ぐるみ」闘争の拠点である。このように、他産炭地における「会社→世話所→社宅→家族」統制体制と、三池における「労組支部→地域分会→社宅→家族」統制体制の対比は注目すべき点であった。第二組合結成後の過程では、社宅ごとに住民の組合所属、労組支部の力関係が大きく異なるため、労組支部(6支部)による所属社宅の管理に着目して検討した。また、1980年代の社宅解体は、「社宅コミュニティの解散」として受け取られた点も明らかになった。

本研究から、三池闘争過程での争点の単純化について、社宅の地域分会を拠点とする「家族ぐるみ闘争」であったこと、闘争拠点が複数化されたことが職場から離れた問題への単純化という説明が可能となった。最後に、本研究をとおして、高度成長期に〈企業社会〉が形成された趨勢とは対照的な動向が描出された。すなわち、労働者の連帯による大規模な闘争が社宅という生活空間で展開され、ついには労働者と家族たちが互いに分断するに至った。そしてその帰結は〈企業社会〉への転換のはじまりであった。