表題番号:2024C-047
日付:2025/02/04
研究課題行動免疫と唾液成分の関連の検討
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 文学学術院 文学部 | 教授 | 福川 康之 |
- 研究成果概要
- 人は,自身の生存や繁殖可能性を脅かすウイルスへの感染リスクを高める対象や状況を嫌悪したり回避したりする心的傾向を有している.「行動免疫」と呼ばれるこの傾向は,コロナ禍をきっかけにこれまで以上に注目を集めている心理現象であるが,生理学的な免疫機構との関連についての検証は不十分である.そこで本研究では,個人の行動免疫傾向と唾液に含まれる免疫指標との関連を検討した.実験に参加した8名(男性7名,女性1名)は,感染嫌悪(行動免疫の一要素)を喚起する不衛生な写真を貼った部屋と喚起しない写真を貼った部屋のいずれかでスピーチ課題と計算課題を行った.参加者から課題前と課題終了後の2回唾液を採取し,SOMAキューブリーダー(エムピージャパン社)を用いてストレスマーカー(免疫グロブリン)の値の変化を検討した.データを分析した結果,,免疫グロブリンの値は実験環境による違いや課題の前後の変化を認めなかった.本研究の結果は,予測された結果とは異なるものであったが,十分な実験環境や参加者の性比などを統制して改めて検証する必要がある.なお,行動免疫と関連する補足的研究として,日本人(男性45名,女性94名)を対象としたウェブ調査のデータを分析し,行動免疫が合理的・感情的の二つの認知システムの活性を通じて年齢差別傾向(エイジズム)に影響を及ぼす,という仮説(因果モデル)の妥当性を検証した.その結果,女性は男性よりも感染嫌悪を示す傾向が強いこと,また,男性は女性よりも合理的思考スタイル得点が有意に高いことが明らかとなった.また,男性の合理的思考スタイルは年齢差別と,女性の感情的思考スタイルは感染嫌悪とそれぞれ負の相関を示した.しかしながら,上記の仮説的因果モデルは必ずしもデータに良く適合するものではなかった.性別に配慮するなど,病原体の脅威と差別を結びつける,より洗練された認知モデルを構築する必要があると思われる.