表題番号:2024C-040
日付:2025/04/08
研究課題1920-30年代の日本文学における〈声〉への回帰とラジオの関係性
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 文学学術院 文化構想学部 | 助手 | 大木 エリカ |
- 研究成果概要
- 本研究の主な研究成果として、まず谷崎潤一郎の「春琴抄」(『中央公論』48年6号、1933年6月)を取り上げた論文「一九三〇年代における女優の〈声〉の役割――谷崎潤一郎「春琴抄」のラジオ化をめぐって」(『日本近代文学』第111集、2024年11月、査読付)が挙げられる。本論文では、1934年12月に大阪放送局(JOBK)から全国へと放送されたラジオ物語「春琴抄」の台本(NHK放送博物館所蔵)に注目し、初出本文や島津保次郎監督の映画「春琴抄 お琴と佐助」(松竹蒲田、1935年6月)との比較を通して、脚本を担当したJOBK文芸課課長・奥屋熊郎の戦略や、語りを務めた女優・岡田嘉子の〈声〉の機能について分析した。続いて、谷崎の「黒白」(『大阪朝日新聞』朝刊・『東京朝日新聞』朝刊、1928年3月25日-7月19日)を取り上げた論文「谷崎潤一郎「黒白」とナンセンス――一九二〇―三〇年代における〈笑い〉の表象」(『文藝と批評』第13巻第8号、2024年11月、査読無)では、ナンセンス文学の観点から「黒白」における〈笑い〉とマスメディアの関係性について検討し、テクストが1930年代の「ユーモア小説」でも重視された「諷刺性」、すなわち出版資本主義に対する批評性を内包していることを明らかにした。また、口頭発表「舞台からラジオへ――谷崎潤一郎「蘆刈」と久保田万太郎の試み」(2024年度早稲田大学大学院文学研究科現代文芸コース研究集会、2024年12月14日、於早稲田大学)では、谷崎の「蘆刈」(『改造』14巻11-12号、1932年11-12月)を取り上げ、久保田万太郎脚色による戯曲版(1940年5月上演)・ラジオ版(1940年5月放送)のテクストの分析から、「蘆刈」におけるアダプテーションの問題を検討することを試みた。以上の研究成果を踏まえつつ、今後は谷崎以外の作家にも注目しながら、引き続き1920-30年代における日本近代文学とラジオの関係性について、より詳細に検討していくことを試みる。