表題番号:2024C-037
日付:2025/02/04
研究課題西田哲学と情意
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 文学学術院 文化構想学部 | 教授 | 小林 信之 |
- 研究成果概要
- 西田哲学と情意の問題を考えるために、まず初期の『芸術と道徳』をはじめとする諸論考に焦点をあわせ、とくにそこで論じられているカントの『判断力批判』の議論と対照させつつ西田哲学の立場を検討することを本年度の研究課題とした。さらにその延長で、中期の「場所の思想」においても、叡知的一般者との連関で美が主題化されていることにかんしても考察の対象とした。そもそも西田幾多郎の哲学的営為においては、その初期の段階から、感情一般ではなく、その純粋な作用としての、美における創造性に焦点があわせられており、そうした方向性は晩年にいたるまで一貫しているといえる。ところで以上のような観点からの考察によって、西田哲学において感情の問題は、ある絶対的な立場にいたるための中間的・媒介的段階に位置していることが明らかとなるが、そうした議論とは区別されて、ある特別な感情が哲学への動機として語られる場面がある。それが悲哀である。本研究ではこの悲哀の感情を、哲学の端緒として、ひとつの根本情調とみる観点から考えることを試みた。そして最後に、美をつねにフォルム(形あるもの)から把握する西欧哲学の文脈を離れて、根底に悲哀をおきつつ「形なきもの」の形を見つめる思考の伝統のなかで、「もののあはれ」とよばれる概念についても検討した。これは、西田哲学に示唆を得たひとつの試論として理解していただきたい。けっきょくのところ、本研究における一貫した問いは、感情をめぐる問い、すなわち世界へとかかわるわたしたちの感情の固有性をどのように考えることができるかという問いである。したがって本論の主旨としては、美や悲哀など、感情の問題を論じる西田哲学の解釈も、そうした問いに連関するかぎりでしかないことを了解していただきたいと思う。