表題番号:2024C-036 日付:2025/01/25
研究課題「上智と下愚は移らず」の唐宋的展開
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文化構想学部 講師 長谷川 隆一
研究成果概要
 本研究は、『論語』陽貨篇「上智と下愚は移らず」の唐宋的展開を考究したものである。
 中国のとくに漢代~唐代において、支配的な人間観となっていたのは、性三品説だった。性三品説は人間を上智・中人・下愚の三に分類し、中人は上智の教化により、自身に眠る善性を伸長させることができる、というものである。性三品説の経学的根拠となったのは、『論語』であり、とくに孔子の「上智と下愚は移らず」という言葉であった。漢から唐の思想家たちは、聖人孔子の言葉である「上智と下愚は移らず」を典拠に、性三品説を語ったのである。
 しかし、唐~北宋あたりに、「聖人学んで至るべし」という思想が出現したことにより、性三品説は退潮傾向が甚だしくなった。人間の性の不平等を骨子とする性三品説は、性の平等を述べる「聖人学んでいたるべし」には勝利することはできなかった。この思想は、南宋の朱子において決定的となる。
 「上智と下愚は移らず」は性三品説の最も有力な典拠として用いられていた。しかし、人間の性の平等を前提とする「聖人学んで至るべし」という発想とは、全く相容れない。ゆえに、朱子を始めとした道学者達は、この句の解釈に苦心することとなる。
 これを踏まえ本研究では、唐~宋の思想家における「上智と下愚は移らず」の解釈を、彼らの著作の中から抽出し、史的に明らかにすることを目指した。具体的には、韓愈「原性」・李翶「復性書」・蘇軾「楊雄論」・司馬光「性辨」・王安石「原性」・王安石「性説」・朱熹『論語集注』を分析の対象とした。ただし現状、これらの作品を精読することと、性三品説や性の平等から中国・日本・西洋の人間観に関わる思想のインプットを行うに止まっている。2025年度には、本研究の成果を活かし、学会報告・論文公刊を行うことを目指す。