表題番号:2024C-027 日付:2025/04/03
研究課題国家再建・平和構築過程における武力紛争被害者に対する賠償メカニズムの機能
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 大学院法務研究科 教授 古谷 修一
研究成果概要

現在の武力紛争の大部分は、非国家主体である武装集団が紛争当事者となっており、その行為により、文民などに深刻な損害が発生する事態が多くみられる。このため、国際上の賠償責任の射程を武装集団にまで拡張する現実の必要性が議論されるようになっている。加えて、賠償責任の履行が武力紛争終結後の社会における移行期正義の実現に資する点を考えると、武装集団そのものが被害者に対する賠償に関わることは、社会の安定と融和という観点からも重要となる。

 従来の国際法における議論では、国家、国際機構、個人が一次規範上の義務に違反すれば、二次規範上の賠償責任が発生することに疑問の余地はない。しかし、国家と個人の間に位置する中間的な団体としての武装集団が、被害者に与えた損害について賠償を行う国際法上の義務を負うのかは必ずしも明確ではなかった。

本研究では、国連機関が武装集団に賠償を要求した事例や実際に和平協定などの締結により賠償が行われた事例を通して、国際人道法や人権法の一次規範上の義務が武装集団に課される場合があることを明らかにしたうえで、この違反について賠償がどのように行われているかを具体的に検討し、武装集団の賠償義務のあり方を抜本的に捉え直す視点を探求した。

この結果、従来の責任論は状況に依存しない一般理論として提唱されてきたが、むしろ紛争終結状況の多様性を読み込んだうえで、個々の状況に依存する賠償義務のあり方を枠組として議論すべきという結論に達した。「状況依存性」という概念を国際法規範に持ち込むことで、国際責任論をより現実的な理論とし、関係国家や国際社会の関与を特定の状況において積極的に認めることで、被害者救済の実質を強化するが可能となることを論証した。

この成果は、論文「武力紛争被害者に対する非国家武装集団の賠償責任-新たな責任法の枠組と意義」として、浅田正彦・植木俊哉・尾崎久仁子編『国家と海洋の国際法 下巻 柳井俊二先生米寿記念』(信山社、2025年2月)に公表した。これ以外にも、研究成果発表実績に記載した諸論文に、この研究の成果が反映されている。