表題番号:2023R-012 日付:2024/03/14
研究課題白亜紀/古第三紀境界の一次生産崩壊は本当か?新しい安定同位体比測定手法からの検討
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教育学部 教授 守屋 和佳
研究成果概要

本研究では,白亜紀/古第三紀(K/Pg)境界の絶滅事変を対象として,海洋表層における一次生産の長期停滞と生物ポンプの抑制による海洋生態系の崩壊仮説の検証を目的とする.この検証にむけて,特に,K/Pg境界を通じて動物プランクトンの代表的存在であった浮遊性有孔虫の化石群組成の解析を行った.K/Pg境界では,地球外天体の衝突による地球表層環境の擾乱により,多くの海棲生物が絶滅した.なかでも浮遊性有孔虫は大きな影響を受けたことが知られている.そこで,これまでK/Pg境界における海棲生物の絶滅と回復の動態の解析が行われていなかった,北西大西洋中緯度地域の深海底から採取された堆積物試料を用いて解析を行った.

研究に用いた試料の年代は,約79百万年前から約61百万年前までの期間である.そのうち,K/Pg境界(約66百万年前)を含む,約69百万年前から65百万年前の地層の堆積は確認できなかった.これは,K/Pg境界における地球表層環境の物理的擾乱により,堆積物の記録が欠如したものと推測される.本研究において確認できた限りでは,K/Pg境界の絶滅事変以前の白亜紀から生息し,K/Pg境界後の古第三紀まで存続したのは1種のみで,少なくとも27種の白亜紀の浮遊性有孔虫がK/Pg境界で絶滅したことを確認した.その後,古第三紀では,浮遊性有孔虫の種数が少ない状態が続くものの,およそ62百万年前から携帯的な多様度が増加し,61百万年前までには光合成共生をおこなう浮遊性有孔虫が出現したことが確認できた.