表題番号:2023R-010 日付:2024/03/23
研究課題中世ヨーロッパ貴族に関する歴史社会学的定義の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教育学部 教授 堀越 宏一
研究成果概要

前近代の歴史研究の対象の中には、それを定義しようとする際に法的定義などがいまだ存在せず、イメージや表象に関する史料しか残されていないようなテーマがいくつもある。そのようなテーマについては、「・・・のように見える」ということが、その当時にあっても、現在の歴史研究にとっても、それを把握するための基本的な手掛かりとなることを明らかにし、研究方法としての一般化を考えることは重要であるだろう。

本研究の研究代表者は、このような前提に基づいて、中世ヨーロッパの貴族に関して、法制度史的な定義ではなく、貴族をめぐる具体的なイメージや表象の集合によって、中世ヨーロッパの貴族を定義することを近年の研究テーマの一つとして考え続けてきた。そして、「貴族のように見える」ということが、中世当時の貴族の社会的定義であり、現在でもそのような視点から貴族を定義して考えることが有効であるという仮説の実証のために、儀礼、衣食住、戦闘法、城や館、威信財など、「貴族のように見える」ことを構成している多様な具体的側面からの分析を積み重ねている。

本研究課題では、そのような研究構想の一環として、貴族の要素の中で最も中心的な「騎士」であることが、中世当時、どのようにイメージされていたかを知る最良の一次史料として、騎士の理想像を描いた「騎士論」とも呼ぶべき一連の著作を取り上げた。いくつかの代表的著作を比較する中で、とくに、14世紀半ばのジョフロワ・ド・シャルニィによる『騎士道の書』が重要であると考えられたため、本年度には、その内容の理解と分析を中心的に行った。自身、フランス国王に仕え、ポワティエの戦い(1356年)で国王旗の旗手として戦死した当時の代表的騎士であるジョフロワ・ド・シャルニィが、馬上槍試合から実戦にいたる騎士としてのあるべき振る舞いを語ると同時に、平時における主君への封建的家臣としての義務についても、韻文によって語る内容となっている。