表題番号:2023R-006 日付:2024/02/05
研究課題中国前近代における女性観の展開
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文化構想学部 教授 渡邉 義浩
研究成果概要
中国前近代における女性観の展開を解明するために、前漢末の劉向の『列女伝』と、劉宋の范曄『『後漢書』列女伝との比較検討を行った。劉向の『列女伝』編纂の目的は、天子の后妃たちに規範を提供することにあった。こうして編纂された『列女伝』は、後漢では「古典中国」を規定する『白虎通』に基づく皇后選出という具体的な政治や、鄭玄の経典解釈に大きな影響を与えた。ただしそこには、広く女性の規範足り得る女訓書としての性格を見ることはできない。これに対して、劉宋の范曄が著した『後漢書』列女伝は、劉向『列女伝』の対象を継承しない。『列女伝』の対象であった天子の后妃は、その規範と共に『後漢書』皇后紀に記されたからである。これ以降、歴代正史の列女伝は、劉向の『列女伝』とは対象を変え、広く女性一般を描くものとなった。また、『後漢書』列女伝は、貞節など儒教的女性観に塗りつぶされてもいなかった。三夫にまみえた蔡琰の文学的才能を高く評価し、その詩二篇を収録したように、六朝期の多様な価値観を反映した女性評価を行っていたのである。
  中国女性に規範が必要とされたことは、現実の女性が、規範どおり生きていたことを意味しない。『列女伝』の女性像は、そのまま現実世界の女性像ではない。それを考えたとき、儒教を媒介とする男性の規制を必要とさせた奔放な女性の生き方も、男性の規制を内在化して自律的に従って生きる女性のあり方も、共に伝えようとした中国の正史の列女伝と『列女伝』との差異は大きい。それでも、『列女伝』が本来描いた后妃のあり方が皇后紀や外戚伝に描かれるようになると、班昭の「女誡」のような広い女性を対象とした訓戒に沿う物語が、『列女伝』の分類に基づいて、正史の列女伝に類型的に蓄積されていく。その結果、劉向の『列女伝』そのものも、広く女性に読まれるべき規範書との認識が進んでいくと考えてよい。