表題番号:2023Q-020 日付:2024/04/05
研究課題古代東アジアにおける辺境島嶼支配の比較研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 柿沼 亮介
研究成果概要

本研究では、東アジアにおける「辺境島嶼」の比較を通して、境界地域が国家間の通交において果たしてきた役割や、在地勢力の主体的な活動に目を向け、「辺境」とされた地域の視点から「国境」や「民族」を相対化する視座を歴史教育に導入し、ひいては我々が生きる近代国家という枠組みの中の歪みに目を向けることを目的としている。その上で2023年度特定課題(科研費連動)では、日本列島の「北」の境界の支配に注目し、北方の境界の歴史的な変遷を踏まえて、「異民族」として扱われてきた蝦夷やアイヌに対する国家の側の認識について調査し、その成果を「辺境島嶼」に対する支配と比較することで、「辺境島嶼」の特質において「辺境性」と「島嶼性」を切り分けることを目指した。

津軽海峡を挟んで東北と向かい合う北海道は「島」として捉えることはできるものの、先史時代より北東北と道南は一体の文化圏を形成する地域であり、道南の地理的環境や「和人」の進出のあり方を踏まえても、歴史的に北海道が統一的に把握される主体となったのは近世以降であると考えられる。また「異民族」として認識されていた蝦夷やアイヌは、北東北や北海道の「辺境」地域が伸縮する中で、「同化」の対象へと変化していった。こうした「北」の「辺境性」の特徴は、「南」の境界における南西諸島の支配や、タネ・ヤク人や奄美人の同化について検討する上で有効な視座であると考えられる。

こうした成果を踏まえて、202312月に韓国の高麗大学校歴史教育科において、日本歴史教師招請特別講義として「歴史教育の中の『辺境』」と題する発表を行い、フィードバックを得た。今後は、支配地域の拡大と「同化」に注目した日本列島の南北の「辺境」の比較を行い、さらに歴史教育における「国境」概念の相対化を目指していきたい。