表題番号:2023Q-015 日付:2024/04/05
研究課題カタルーニャの人間の塔に関する人類学的な文化遺産研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 人間科学部 教授 竹中 宏子
研究成果概要
スペイン・カタルーニャの伝統文化とされる「人間の塔」(Castells)は、人が立位の状態で積み上げられ、6段以上の塔あるいは城のような形を成すものである。人間の塔は、カタルーニャで行われる祭りや祝祭で建てられるが、特に「カタルーニャの日」(9月11日)にはスペイン中央政府からの独立を目指す社会運動の象徴とも捉えられ、外部からは、人間の塔に関わる人々全てが同じイデオロギーをもっているように理解される傾向にある。しかし、塔を建てるメンバーの視点から行われた報告者のこれまでの研究では、カタルーニャ主義とのかかわり方はチームによって異なり、また、同じチーム内でも多様な考え方の個人の存在を示してきた。本年度の研究では文化遺産がもつ政治性を再考したいと考え、フェミニズム運動とも捉えられる「女性のみでつくられる塔」に着目し、それを実演する唯一のチーム「サンツ」(Castellers de Sants)と、バルセロナ市内の人間の塔チームに所属する女性が自由意志で参加できる、「国際女性デー」(3月8日)に向けて結成されたチームで参与観察を行った。特に後者の場合は、カタルーニャ主義の場合とは異なり、ジェンダー平等の実現に向けて自らの意思で参加するので、参加者は明らかに政治性を意識していることがわかる。本研究では、国際女性デーでの実演とその前に行われた2回の練習参加を通じて、その所作においても、男女混合で建てられる塔とは異なることが把握できた。また、女性のみでつくられる人間の塔が、女性というマイノリティを中心に置くことで描かれる未来を展望し得る可能性を検討し、文化遺産を政治的に活用する意味を考察した。