表題番号:2023Q-012 日付:2024/03/28
研究課題卵母細胞と体細胞を橋渡しする微小管の機能
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 国際理工学センター(理工学術院) 准教授 戸谷 美夏
(連携研究者) 理工学術院 教授 佐藤 政充
研究成果概要
微小管は、細胞の極性や形態形成、物質の輸送など、細胞がもつ基本的な機能に重要な役割を果たす。微小管の制御については、in vitro実験や培養細胞を用いた多くの研究が進められているが、哺乳類の組織における、編成制御とその役割については、未だ多くのことがわかっていない。
我々はこれまでに、微小管結合タンパク質Camsap3が、多くの臓器を構成する主要な細胞である上皮細胞において、微小管編成の鍵となる因子であることを見出した。Camsap3ノックアウト(KO)マウスを作出して解析を進める過程で、雌マウスが不妊となることに気づいた。Camsap3KO雌マウスは、性周期の進行は野生型と同等であるが、過排卵処理をおこなっても排卵が認められない。卵巣組織を調べたところ、Camsap3KOマウスでは、排卵に至る成熟した卵胞がほとんど観察されなかった。
卵胞は、生殖細胞である卵母細胞と、それを取り囲む母体の体細胞(顆粒層細胞)から構成される。本研究課題では、Camsap3KOマウスにおける卵胞成熟過程について、解析を行った。その結果、1) Camsap3KOの卵巣では、一次卵胞、二次卵胞は、野生型と同様に観察されたが、胞状卵胞・グラーフ卵胞の数が有意に減少し、2) 残存する胞状卵胞では、顆粒層細胞のアポトーシスが観察された。これらの観察は、二次卵胞以降の卵胞成熟過程に欠陥があり、卵胞の退縮がおこることを示唆する。二次卵胞では、卵母細胞を取り囲む透明帯の発達に伴って、顆粒層細胞から、透明帯をつきぬけて卵母細胞に至る細胞骨格系の突起Transzonal projection (TZP)が形成される。Camsap3KOでは、TZPの数が減少することがわかった。これまでTZPは、アクチン系の構造と考えられてきたが、その形成や維持にCamsap3が制御する微小管が重要な役割を果たすことがわかってきた。