表題番号:2023Q-002 日付:2024/03/14
研究課題水落地蔵」納入「諸国勧進交名」の基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文化構想学部 教授 川尻 秋生
研究成果概要
 文治3年(1187)、日本の30ヶ国以上の国々で行われた勧進の記録である、水落地蔵納入「諸国勧進交名」の新たな翻刻およびその内容に関する研究を行った。当史料は、史料の少ない鎌倉時代初期の在地社会での勧進の記録であり、一ヶ国につき100名を超える人名および勧進場所が書かれている。このうち、今回は、これまでの釈文を見直し、訂正しつつ新たな釈文を作成した。また、武蔵国、常陸国・下総国・上総国・安房国について、「勧進交名」自体を検討した。その結果、①勧進場所は、他の文書史料から裏付けられる場合が多く、交通の要衝に当たること、②既知の古代の氏族名と比較すると、一致する場合が多く、「勧進交名」を用いて古代の氏族の復元に役立てることができること、③奈良時代の豪族が「勧進交名」の中に見出される場合があり、400年以上、場合によっては600年以上にわたって、在地で繁栄を続けている場合も確認できたこと、④古代、東北に移住して大きく繁栄した房総の氏族(丸子氏)が、出身地に戻っていたことから、房総と東北の相互交流が行われた可能性が高いこと、などが確認された。
 以上の成果から見て、「勧進交名」を研究することによって、古代・中世の交通の実態、中世氏族の具体的研究、古代氏族の復元、他地域との交流の実態、などを明らかにできることが明らかとなった。本研究は、予算・時間の関係もあり、ごく限られた地域しか検討の対象にできなかったが、日本の3分の2以上の地域を含む「勧進交名」全体を検討の対象とすることによって、中世初期の地域社会はもちろん、古代の地域社会の解明を勧める糸口が得られることが明らかとなった。
 これまで、仏像に納入される勧進交名は、ほとんど研究の対象にされなかったが、多くの交名の集積・データ化を進めることによって、「交名学」という学問分野を新たに構築することを目指したいと考えるに至った。