表題番号:2023N-007 日付:2024/04/03
研究課題発展途上国の経済発展と社会変動:インド農村における社会・経済・政治に関する調査
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 大学院アジア太平洋研究科 教授 加藤 篤史
(連携研究者) 神戸大学 教授 佐藤隆広
(連携研究者) パンジャブ農業大学 教授 Kamal Vatta
研究成果概要
急激な経済発展が進行する中でインドの農村ではどのような社会的・経済的・政治的な変動を経験しているのか、それが翻って政府の政策を通じてインドの経済発展にどのような影響を将来与えうるのかについて研究を行うためにパンジャブ州Amritsar 県のGaggar Bhana村で全家庭(700~750戸)を対象に実施たサーベイ調査を実施した。その結果、調査を拒否した家庭を除き、約94%の家庭での聞き取り調査を実施することができた。我々のチームはすでに聞き取り調査のデータを得ており、現在分析を行っている。今後分析の結果として、第1に、経済が急速に発展するインドの中で農村に起きている社会・経済・政治の変動を明らかにすること、第2に、社会・経済・政治の変動が、政治的なフィードバックを通じて経済発展をさらに促進するかに関して重要な示唆を引き出すことができると考えている。インドのような発展途上国では、たとえ民主主義的な制度をとっていたとしても、貧困層の票を標的とする恩顧主義(clientelism)や、富裕層が金で自分たちに有利な政策を実現させる金権政治(money politics)が広く見られ、政府の政策は一般市民よりも政治エリートの利益を重視したものになりがちである。サーベイによって得られた貴重なデータをもとに、経済発展とともに恩顧主義・金権政治から市民全体の利益を重視する政治のあり方に変化しつつあるのかという点を今後明らかにしてきたいと考えている。第2次世界大戦後民主主義国の数は概ね順調に増加してきたが、V-DEMによれば2019年に18年ぶりに民主主義国の数が非民主主義国の数を下回った。民主主義国家から非民主主義国家に転換した国々は、発展途上国がほとんどを占めている。独立後戒厳令が敷かれた短期間を除いて75年間にわたって民主主義的制度を維持してきたインドも、V-DEMによれば非民主主義化が進んでいる。本調査は広大なインドの中の一農村でのフィールド調査であるが、世界最大の民主主義国家であり発展途上国であるインドの近代化に伴う変動に関して理解を深めることで、民主主義の崩壊(democratic breakdown)をくい止められるかを考察する一助になるような研究成果を上げたいと考えている。